訪問看護の残薬管理は気まずい?家族への伝え方

看護師

薬箱に飲み残しが溜まっていても、患者本人のプライドを傷つけそうで言い出せない。家族に伝えると「ちゃんと飲ませているのに」と反発される。医師にどの段階で報告すべきかわからない。訪問看護の残薬管理では、こうした場面がよくあります。

訪問看護師が高齢患者の残薬を確認している様子

この記事では、残薬対応を単なる「手技」としてではなく、患者・家族・医師・薬剤師との関係づくりとして整理していきます。

実はデータを見ると、残薬は「珍しい失敗」ではない

訪問看護師が残薬に関する統計データを確認している様子

中医協総会資料「個別事項(その19)居宅への訪問における残薬対策」によると、自宅に残薬があると回答した患者は約半数。60歳以上では6割にのぼります。

一方、残薬ありと答えた患者のうち「整理したい」としたのは約2割にとどまります。つまり患者側は残薬を問題と感じていないことが多く、看護師が指摘すると温度差が生じやすいと考えられます。気まずさの原因は、伝え方だけではないのです。

同資料では、1か月分以上の残薬がある患者の78%が、相談しやすい相手に「薬剤師」を挙げています。看護師一人で抱え込まず、薬剤師連携が解決の鍵になり得るでしょう。

ただし、近くに在宅対応できる薬局がない、事業所内で報告ルールが決まっていないといった条件では、看護師に負担が集中しやすい傾向があります。

具体的な伝え方と連携の進め方を、次の章で見ていきましょう。

年齢が上がるほど残薬が増える背景にあるもの

先ほど触れた通り、残薬がある患者のうち「整理したい」と答えたのは約2割にとどまります(中医協総会資料「個別事項(その19)」)。60歳以上で残薬が6割に達する一方、本人の整理意向は低いままです。この差は、加齢に伴う生活リズムの乱れや服薬への慣れが、問題意識を薄れさせている可能性を示唆しています。訪問看護の残薬管理では、「困っていない人にどう関わるか」が実務上の難所になります。

訪問看護自体の利用者は決して少なくありません。介護保険による利用者は約74.4万人(介護給付費等実態統計、令和5年6月審査分)、医療保険による利用者は約48.4万人(訪問看護療養費実態調査、令和5年6月審査分より推計)です。これだけ多くの在宅療養者がいる以上、訪問看護の残薬管理は一部の特殊な事例ではなく、日常的に向き合う課題と言えます。

残薬の背景にはポリファーマシーが潜んでいることがあります。国立長寿医療研究センターの「多職種連携推進のための在宅患者訪問薬剤管理指導ガイド」によると、75歳以上の約4割が5種類以上の薬剤を服用しています。日本の高齢者における薬物有害事象の発生割合は15.4%、フレイルとポリファーマシーが合併した高齢者では33%に上るとされています(同ガイド内文献引用)。居宅療養管理指導を受けている患者の平均要介護度は2.8(平成30年度介護給付費等実態報告、同ガイドより。時点がやや古い点に留意が必要です)。重複投与やアドヒアランス低下は、残薬と結びつきやすい傾向があります。残薬の確認は、単なる片付けではなく副作用モニタリングの入口でもあると捉えられます。

残薬を見つけたら誰に何を伝える?医師・薬剤師との役割の境界線

訪問看護師と医師・薬剤師が連携している様子

看護師の役割は「療養上の世話」と「診療の補助」

保健師助産師看護師法第5条では、看護師の業務が「療養上の世話」と「診療の補助」と定義されています。残薬の確認・服薬状況の観察・情報提供はこの範囲に含まれますが、処方変更や残薬の調整量を決める判断は医師の領域です。看護師が独断で薬を減らしたり、飲み方を変えたりすることは避けるべきとされています。

医師・薬剤師それぞれの責任範囲

処方を決定するのは医師、処方内容に疑義があるときに医師へ確認するのは薬剤師という役割分担があります。看護師に求められているのは「判断」ではなく、医師と薬剤師が判断できる材料を正確に届けることです。こう捉えると、家族と医師の間で板挟みになったときも「私が決めることではないので、状況を正確にお伝えします」と伝えやすくなると考えられます。

制度は薬剤師連携を後押ししている

中医協総会資料「在宅(その3)」によると、在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料のうち「残薬調整に係るもの」は令和6年度改定で30点から20点に変更されました。「残薬調整に係るもの以外」は40点で据え置かれています。点数変更の理由は資料に明記されていません。

同資料の保険薬局患者調査票では、医師の訪問に薬剤師が「同行した」が9.1%(n=226)、「同行していない」が85.5%(n=2,133)でした。医師と薬剤師が同時に患者宅を訪れる機会は、まだ限定的と言えそうです。この状況を受けてか、令和8年度診療報酬改定に向けた検討資料では、訪問診療薬剤師同時指導料(300点、6月に1回)の新設が示されています。施行時期や算定要件の詳細は、疑義解釈資料等で確認することをお勧めします。

薬局薬剤師による居宅療養管理指導も、介護保険で利用できる仕組みの一つです(単一建物居住者1人の場合518単位、令和7年4月1日施行の点数表時点)。単位数は改定で変わる可能性があります。

訪問看護記録書Ⅱや訪問看護報告書には、服薬状況(残薬の状況を含む)を記載する欄があります。主治医への報告・連携の根拠として、基準省令においても医師との連携が求められています。日々の記録が、医師・薬剤師との情報共有の土台になります。

気まずさを減らす残薬確認の進め方

訪問看護師が家族と一緒に残薬を確認している様子

なぜ残るのかを見る:自己管理能力のアセスメント

自己管理能力のアセスメントでは、手指巧緻性(PTPシートを押し出せるか)、視力、認知機能、生活リズムと服用時点のずれ、嚥下機能、副作用への不安による自己中断、家族の関与度などを確認します。

薬剤師に伝える情報は、判断ではなく事実が重要です。「朝は起きられず朝食をとらない」「錠剤を指でつまめない」といった生活と身体機能に関する事実情報は、一包化や服用時点の集約といった調剤設計の提案につながりやすいとされています。ただし一包化は便利な一方、重複投与や飲み忘れの特定が難しくなる場合があります。お薬カレンダーも、認知機能によっては混乱を招く場合があるため、条件を見極める必要があります。

「指摘」ではなく「一緒に確認する」

海外の研究では、ポリファーマシー患者144名のうち97%が服薬状況を正直に伝える意思を持ち、99%が医療者との情報共有に前向きだったと報告されています。錠剤数のカウントが最も正確に状況を反映すると答えた人は60%でした(Mortelmans et al., European journal of clinical pharmacology, 2024)。患者は責められることは嫌がっても、一緒に数える関わりには協力的な可能性があります。ただし対象は退院時の海外患者であり、日本の在宅療養者にそのまま当てはまるとは限りません。

また、教育的な関わりは2〜3回でアドヒアランス改善が見られ、それ以上回数を重ねても有意な差は見られなかったとする報告もあります(Tan et al., Journal of advanced nursing, 2019)。一度で解決しようとせず、数回に分けて関わる姿勢が実務上参考になりそうです。

伝え方としては、主語を「あなた」ではなく「お薬」にする、家族を責めずに「飲みにくさの原因を一緒に探す」姿勢を示すといった工夫が挙げられます。

ステーション内で手順を標準化する

残薬確認は個人の勘に頼らず、手順として標準化しておくと対応しやすくなります。

  1. 残薬を数えて確認する
  2. 原因をアセスメントする
  3. 記録する(薬剤名・残数・推定される原因・本人と家族の認識)
  4. 報告先を判断する(副作用が疑われる場合は主治医、調剤上の工夫が必要な場合は薬局)
  5. 次回訪問時に再確認する

家族が自己判断で残薬を処分する、看護師が善意で飲み方を変えてしまう、報告が口頭のみで記録に残らない、担当者ごとに確認方法が異なるといった失敗はよくある事例です。手順を事業所内で共有しておくことで、こうした事態を防ぎやすくなると考えられます。

これからの残薬管理はどうなる?2つのシナリオ

可能性が高いシナリオ:薬剤師連携が進み、看護師は「つなぐ」役割へ

令和8年度診療報酬改定に向けた検討資料では、訪問診療薬剤師同時指導料(300点、6月に1回)の新設が示されています。医師と薬剤師が同時に関わる場面を評価する流れが、今後も続く可能性があります。地域包括診療料のように、医師側に服薬管理を含めた継続管理を求める報酬もあります(算定要件は疑義解釈資料等で随時確認が必要です)。

こうした制度の方向性からすると、看護師には「自分で判断する」より「生活の場で見た事実を医師・薬剤師に届ける」役割がより重視される傾向があると考えられます。一包化やポリファーマシー対策、アドヒアランス改善も、看護師単独ではなく薬剤師連携の中で進むケースが増えるかもしれません。

リスクシナリオ:連携体制の差が負担の差になる

一方で、在宅対応できる薬局が少ない地域や、事業所内で報告ルールが決まっていない職場では、残薬対応が看護師個人の判断と対人調整に偏りやすいと考えられます。制度が整っても、職場ごとの運用次第で負担は大きく変わる可能性があります。

訪問看護の残薬管理に向いている人・向いていない人

向いている人

  • 生活背景から服薬が乱れる原因を探るのが苦にならない
  • 自分で判断せず、医師・薬剤師へ事実を正確に渡すことに納得できる
  • 一度で解決しようとせず、数回に分けて関われる
  • 記録と報告を丁寧に行える
  • 家族の事情に配慮しながら事実を伝えられる

現時点で負担が大きいかもしれない人

  • 指摘への抵抗感が強く、報告を先送りしがち
  • 自分で調整して早く片付けたい気持ちが強い
  • 連携先(薬局・医師)との連絡を負担に感じる
  • 記録業務を後回しにしがち

後者に当てはまっても、手順(SOP)や同行訪問の仕組みがある職場なら、負担が補える場合があります。

よくある質問

Q1. 訪問看護の残薬管理を丁寧に行うと給与に反映されますか?

残薬確認そのものに対する個別の報酬評価は、今回確認した公的資料からは明示されていません。給与は事業所の給与体系や評価制度によって異なります。面接で評価項目を確認することをお勧めします。

Q2. 飲み間違いや残薬の相談で夜間に呼ばれることはありますか?

副作用が疑われる場合などは、緊急対応につながる可能性があります。オンコール時の報告先(主治医・薬局)や判断基準が事業所内で決まっているかどうかで、負担感は左右されると考えられます。

Q3. 家族と医師の間で板挟みになったらどうすればいいですか?

看護師は判断者ではなく、情報をつなぐ立場です(保健師助産師看護師法第5条の「療養上の世話」「診療の補助」の範囲)。事実を記録し共有すること、薬剤師に相談しやすい環境を活用することが実務上の支えになります。

次の一歩:応募前・入職後に確認したいこと

訪問看護師が職場の体制についてチェックリストを確認しながら相談している様子

面接では、以下を確認してみてください。

  • 残薬確認の手順書(SOP)はあるか
  • 連携している薬局は居宅療養管理指導などの在宅訪問に対応しているか
  • 服薬状況の記録様式はどうなっているか
  • 医師への報告ルートと判断基準は決まっているか
  • 新人の同行訪問の期間はあるか

入職後は、ポリファーマシー、アドヒアランス、一包化、副作用モニタリングの基礎を学びつつ、報酬の最新情報は疑義解釈資料で確認する習慣をつけると安心です。

訪問看護の残薬管理は、気まずさを個人の性格で乗り切るものではありません。手順と連携体制によって負担を減らせる業務です。職場の体制と自分の適性を確認し、納得できたら進む。その姿勢が、長く働き続けるための土台になると考えられます。

参考文献・引用データ

本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。

この記事の監修者
株式会社ゴルディロックス
代表取締役 / 理学療法士龍嶋 裕二(Yuji Ryushima)

理学療法士として大学病院にて超急性期から緩和ケアまで多岐にわたる臨床を経験。2013年に独立し、株式会社ゴルディロックスを設立。 現在、リハビリ特化型デイサービスや訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所等複数の事業を経営。またクリニックの運営やプロアスリートから子供の身体発育までをサポートするパーソナルトレーナーとしても活動中。医学的知見に基づいた地域密着型のヘルスケア環境づくりを牽引している。

この記事のキーワード
看護師

ゴルディロックスでは在宅療養を日本中にゆきわたらせるため、
多様な強みを持つ、たくさんの仲間を募集しています。

LINEで気軽に転職相談

「これからの働き方、どうしよう…」
そんな悩みに寄り添いながら、ゴルディロックスのスタッフが一緒にキャリアを考え、転職活動をサポートします。
まずはかんたん友達登録!

タイトルとURLをコピーしました