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訪問看護ステーションの求人票には「働きやすい環境です」という言葉があふれています。しかし入職するまで実態がわからないという不安は、転職を考える看護師にとって大きなハードルです。
訪問看護ステーションが働きやすいかどうかを、求人票の文言だけで判断するのはリスクがあります。
2024年時点で医療保険対象のステーションは約17,000か所にまで増加しました(日本看護協会「2040年に向けた訪問看護のビジョン」)。選択肢が増えた一方、施設間の労働環境の差も広がっています。

約3割のステーションには賃金表すらない
日本看護協会「2024年度看護職員の賃金に関する実態調査」によると、訪問看護ステーションの32.8%は賃金表が「ない」と回答しています。
賃金制度の透明性は離職率とも関係する可能性があります。病院データでは、賃金表がある施設の離職率は10.9%、ない施設は12.7%という差があります(同調査)。
ただし、数字だけで職場のすべてを測ることはできません。数字で確認できる部分と、実際に働いてみないとわからない部分、両方があることは正直にお伝えします。
本記事では、客観的に確認可能な5つの数字に絞って具体的に解説します。
【数字①②】規模・賃金データで見る「ステーションの安定性」

常勤換算人数と給与水準:5人未満と5〜10人未満で総額に約3〜6万円の差
訪問看護ステーションが働きやすいかどうかは、規模と直結する場合があります。
日本看護協会「2024年度看護職員の賃金に関する実態調査」(図表16)によると、給与総額の差は以下の通りです。
| 規模 | 総額(最低) | 総額(最高) |
|---|---|---|
| 常勤換算5人未満 | 289,619円 | 328,794円 |
| 常勤換算5〜10人未満 | 300,440円 | 357,682円 |
規模が上がると総額の上限が約3万円高い傾向があります。一方、厚生労働省「訪問看護 参考資料」(令和3年時点)によると、常勤換算5人以上のステーションは全体の45.2%にとどまります。約半数は小規模です。
また、日本看護協会「2040年に向けた訪問看護のビジョン」(2021年実態調査)では、訪問看護STの月額給与総額は367,775円、病院は386,046円。規模の大きいステーションでは病院水準に近づく可能性があります。
賃金表の公開状況と経営主体(数字②)
賃金表があっても45.6%しか公開していません(同調査・図表35)。処遇改善手当の有無や固定残業代制度の採用も求人票で確認すべきポイントです。固定残業代が設定されている場合は「超過分の別途支給があるか」を面接で必ず確認してください。
経営主体も見落とせない数字です。日本訪問看護財団「訪問看護の現状とこれから 2025年版」によると、営利法人(会社)が64.0%、医療法人が19.7%を占めます。退職金制度や社会保険の充実度はステーションごとにばらつく傾向があり、経営主体は求人票で即確認できます。
【数字③④】オンコール・24時間対応体制と多職種連携で見る「日常の働き方」

24時間対応体制加算とオンコール負担(数字③)
オンコール対応体制は、日常の働き方に直接影響します。日本看護協会「2024年度診療報酬・介護報酬改定等に向けた訪問看護実態調査」によると、2つのステーション連携による24時間対応体制を「実施している」のは14.2%(n=1,711)にとどまります。
多くのステーションでは単独体制でのオンコール輪番となる可能性があります。特に小規模では月間待機回数が増えやすい傾向があるため、面接時に具体的な頻度を確認することを勧めます。
直行直帰制度・事務専任スタッフ・有給休暇取得率
月平均超過勤務時間と有給休暇取得率も重要な確認事項です。厚生労働省試算(日本訪問看護財団2025年版より引用)では、「超過勤務10時間以内/月・有給休暇5日/年」の条件で2025年の必要人員は12万人、「有給休暇20日以上/年」では13万人と推計されています。条件設定次第で必要人員が1万人規模で変わるという事実は、労働条件の設定がいかに現場の負荷に関わるかを示しています。
直行直帰制度や事務専任スタッフの配置も確認すべきポイントです。レセプト業務や電話対応を専任者が担うステーションでは、看護師が訪問業務に集中できる環境が整いやすい傾向があります。
多職種連携(PT/OT)と訪問看護指示書の運用(数字④)
同財団2025年版によると、従事者の内訳は看護師63.7%、理学療法士14.8%、作業療法士6.4%、言語聴覚士1.3%です。PT/OTが在籍するステーションでは、訪問看護指示書に基づくケアを多角的に検討できる体制が整いやすく、看護師単独での判断負荷が軽減される傾向があります。在籍する専門職の種類と人数(数字④)は求人票で確認できます。
【数字⑤】教育体制とデブリーフィング ― 長く働けるかを決める「見えにくい指標」
特定行為研修修了者・認定看護師の在籍(数字⑤)
日本看護協会「2024年度訪問看護実態調査」によると、認定看護師が0人の事業所は90.3%、特定行為研修修了者が0人の事業所は95.7%にのぼります。管理者も70.4%が「あてはまる資格はない」と回答しています。
だからこそ、認定看護師資格取得支援や特定行為研修の受講支援制度の有無は、ステーションの教育投資の本気度を測る指標になりえます。eラーニング受講体制や同行訪問(OJT)の実施状況も合わせて確認してください。
ターミナルケア後のデブリーフィング体制
同調査では、機能強化型未届出ステーションのうち「ターミナルケアの実施」要件を満たせないのは34.2%です。ターミナルケアを実施する職場では、看護師の精神的負荷が高まりやすい場面があります。
臨床心理士の介入やチームでの振り返り会(デブリーフィング)を制度化しているステーションは、精神的な安全性を担保できる環境として注目されます。見学や面接時に「ターミナルケア後の振り返りの仕組みはありますか」と質問することを具体的に勧めます。公的統計にデブリーフィング実施率の全国値はないため、個別確認が必要です。
ICT化・訪問ルート最適化が示す経営の姿勢
電子カルテやAIによる訪問ルート最適化の導入は、記録時間・移動時間の削減を通じて実質的な労働負担を軽減できる可能性があります。参考として、病院でもICTを用いた看護師による療養支援の実施は4.7%にとどまっており(日本看護協会「2024年病院看護実態調査」)、在宅領域でも急速普及の段階とは言い難い状況です。導入の有無は、ステーションの経営姿勢を測る一指標として活用できます。
訪問看護ステーションの将来シナリオ
需要拡大と処遇改善の可能性
医療保険の訪問看護利用者は約48.4万人、介護保険は約74.4万人(厚生労働省、令和5年6月審査分)。高齢化率29.3%(2024年)を背景に需要拡大が続く見込みで、人材獲得競争の激化に伴い処遇改善が進む可能性があります。
小規模ステーション淘汰と二極化のリスク
一方、利用者39人未満の小規模ステーションは全体の35.8%(日本訪問看護財団2025年版、N=16,423)。機能強化型の届出予定がないステーションは83.0%にのぼり(日本看護協会2024年度訪問看護実態調査)、大規模化が進む事業所との労働条件の二極化が深まる可能性があります。
訪問看護ステーションの適性チェックリスト
合う可能性が高い人
- 利用者一人ひとりと継続的に関わる看護がしたい
- 同行訪問(OJT)で段階的にスキルアップしたい
- PT/OT・ケアマネジャーとの多職種連携を活かしたい
- オンコール待機を含む柔軟な勤務に対応できる
- 特定行為研修など自律的なキャリアアップに関心がある
慎重に検討すべき場合
これらが複数重なる場合は入職前に必ず確認してください。
- 夜間のオンコールが精神的に大きな負担になる
- 小規模ステーションしか選択肢がなく連携体制が不明
- 賃金表が非公開で昇給の見通しが立てられない
- デブリーフィングや教育体制の整備が確認できない
- 臨床経験が浅く、一人訪問に強い不安がある
よくある質問
Q1. 訪問看護ステーションの給与は病院より低い?
日本看護協会(2021年実態調査)では、訪問看護STの月額367,775円に対し病院は386,046円で約1.8万円の差があります。ただし、常勤換算5〜10人未満のSTでは最高357,682円に達する例もあり、規模・経営主体・処遇改善手当の有無で大きく変動する傾向があります。
Q2. オンコールの負担は実際どの程度?
全国平均の出動回数は公的統計に明示されていません。2ステーション連携で夜間対応する体制は14.2%にとどまり(同協会2024年度調査)、多くは自ステーション内での輪番と見られます。面接で「月間待機日数」「過去半年の平均出動回数」を必ず確認してください。
Q3. 人間関係が合わなかったら?
少人数体制が多く、病院のような部署異動は難しい場合があります。事務専任スタッフが配置されているSTや多職種連携が機能している職場では、対人ストレスが分散されやすい傾向があります。見学時にスタッフの平均勤続年数と離職率を質問することを勧めます。
入職前に確認すべき5つの数字

| # | 確認項目 | 確認方法 |
|---|---|---|
| ① | 常勤換算看護職員数 | 求人票・見学 |
| ② | 賃金表の有無と公開状況 | 面接 |
| ③ | オンコール月間待機回数と連携体制 | 面接 |
| ④ | PT/OT等の専門職在籍数 | 求人票 |
| ⑤ | 認定看護師・特定行為研修修了者数と教育支援制度 | 面接・見学 |
訪問看護ステーションが働きやすいかどうかは、自分が何を重視するかによって変わります。すべての条件が整ったステーションは多くありませんが、自分の優先順位をまず明確にしてください。そのうえで、上記5つの数字が求人票・見学・面接のいずれかで確認できたとき、初めて納得のある判断ができます。訪問看護ステーションの働きやすさは数字で客観的に測れる部分があります。条件を自分の目で確かめたうえで、次のステップに進むことを勧めます。
参考文献・引用データ
本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。
- 2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査 結果(日本看護協会)
- 2024年病院看護実態調査 結果(日本看護協会)
- 2025年 病院看護実態調査 報告書 No.102(日本看護協会)
- 2024年 病院看護実態調査 報告書 No.101(日本看護協会)
- 日本看護協会「2024年病院看護実態調査」結果発表(東京都看護協会)
- 訪問看護 参考資料(厚生労働省)
- 令和6年度事業報告(日本訪問看護財団)
- 2024年度 診療報酬・介護報酬改定等に向けた訪問看護実態調査(日本看護協会)
- 2040年に向けた訪問看護のビジョン(日本看護協会)
- 第4回在宅医療及び医療・介護連携に関するWG 資料(厚生労働省)
- 訪問看護の現状とこれから 2025年版(日本訪問看護財団)
- 令和6年(2024年)介護サービス施設・事業所調査の概況(厚生労働省)
- 令和6年(2024年)介護サービス施設・事業所調査 詳細票(政府統計の総合窓口)
- 令和6年(2024年)社会福祉施設等調査の概況(厚生労働省)

