訪問看護の褥瘡ケアどこまで判断できる?制度と限界

看護師
患者宅で褥瘡を観察する日本人の訪問看護師

訪問先でガーゼを外した瞬間、想定以上に褥瘡が深くなっていた——そのとき、すぐそばに医師はいない。

病院なら皮膚・排泄ケア認定看護師にすぐ相談できる。しかし在宅では「どこまで自分で判断していいのか」「処置の範囲を超えていないか」という不安が、訪問のたびにつきまとう。物品は限られ、家族の協力が得られないケースも少なくない。

訪問看護の利用者数は、介護保険で約74.4万人、医療保険で約48.4万人(令和5年6月審査分)にのぼる。在宅医療ニーズが拡大するなかで、訪問看護における褥瘡ケアの判断力はますます問われている。ただし、環境・制度・患者状態によっては対応が難しいケースも確実に存在する。

この記事では、公的制度と診療報酬の根拠をもとに、訪問看護師が褥瘡ケアで判断できる範囲・すべきでない範囲・在宅環境の制約への対処法を整理します。

この記事でわかること

  • DESIGN-R®2020やNPUAP分類による客観的な褥瘡評価の方法
  • 訪問看護師が法的に実施できる処置の範囲と特定行為研修制度の位置づけ
  • 在宅で使える代替資材・ICT活用・多職種連携の実践的な進め方
  • 終末期など「治癒を目指さない」褥瘡ケアと保険制度上の対応

具体的に見ていきましょう。

在宅褥瘡の深刻度をどう客観評価するか——DESIGN-R®2020とNPUAP分類

タブレットでDESIGN-R®2020評価を記録する訪問看護師

「写真を撮ったが、どのステージかを医師に伝えられない」——こうした状況が、訪問看護の褥瘡ケア現場ではよく見られます。

DESIGN-R®2020は、Depth(深さ)・Exudate(滲出液)・Size(大きさ)・Inflammation/Infection(炎症・感染)・Granulation tissue(肉芽形成)・Necrotic tissue(壊死組織)・Pocket(ポケット)の7項目をスコア化する評価ツールです。在宅では訪問ごとに写真撮影し、スコアの経時変化を記録することが特に重要です。

併用したいのがTIMEコンセプト(Tissue・Infection/Inflammation・Moisture・Edge)。Wound Bed Preparationの方針整理に有効で、DESIGN-R®2020と組み合わせることで医師への報告精度が高まります。

NPUAP分類(Ⅰ〜Ⅳ度・判定不能・深部組織損傷疑い)は、訪問看護指示書の記載欄に「DESIGN分類(D3・D4・D5)」「NPUAP分類(Ⅲ度・Ⅳ度)」として明示されており、標準化された報告が求められます(出典:令和4年度診療報酬改定の概要・在宅医療)。

海外の研究では、褥瘡リスク因子として「圧迫・湿潤・ずれ力・摩擦」が挙げられ、移動制限・栄養不良・失禁・糖尿病・認知症の重複が高リスク像として報告されています(Spoelhof & Ide, American family physician, 1993)。在宅ではこれらが複合しやすい点に留意が必要です。

訪問看護師に認められた褥瘡処置の法的範囲と活用制度

「どこまでやっていいか」の線引きは、制度で明確に定められています。

特定行為「壊死組織の除去」の実施条件

厚生労働省の手順書例集(在宅領域版)では、以下をすべて満たす場合に限り特定行為研修修了看護師が実施可能とされています。

  • 関節・会陰部・顔以外の部位
  • 骨が露出していない
  • 血流のない壊死組織
  • 感染兆候なし
  • DESIGN-R評価で関節腔・体腔に至っていない
  • 体表面積1%未満

1つでも該当しない場合は、担当医師に直接連絡し指示を得ることが手順書で明記されています。特定行為研修を修了していない看護師は外科的・化学的デブリードマンを行えず、洗浄・保護・観察の範囲にとどまります。なお海外の研究でも、壊死組織除去の選択肢として「ウェット-トゥ-ドライ法・酵素的デブリードマン・外科的デブリードマン」が報告されています(Spoelhof & Ide, American family physician, 1993)。

活用できる加算・指示書制度

制度 要件・内容
専門管理加算 2,500円/月(令和4年新設)。褥瘡ケア専門研修600時間以上修了の看護師が真皮を越える褥瘡患者を計画的管理
特別訪問看護指示書 真皮を超える褥瘡の状態にある者は月2回交付可・有効期間28日
別表第7・特別管理加算 該当疾病では介護保険から医療保険へ切り替え可能。算定日数制限なし

(出典:令和4年度診療報酬改定の概要・在宅医療)

WOCN(皮膚・排泄ケア認定看護師)への相談・同行訪問依頼も有効な手段です。退院時共同指導の場で褥瘡ケア計画を事前に策定しておくと、在宅移行後の対応がスムーズになります。

看護計画はOP(DESIGN-R®2020スコア・栄養状態)・TP(体位変換・ドレッシング交換・除圧用具管理)・EP(家族への体位変換指導)の形式で文書化し、チーム共有することで判断の属人化を防げます。

在宅環境の制約下での実践対応——除圧・被覆材・浸軟対策

患者家族に褥瘡ケアと体位変換を指導する訪問看護師

「高機能エアマットが使えない」「被覆材の在庫が限られる」——在宅ならではの制約への対処を整理します。

除圧の基本として、30度側臥位で2時間ごとの体位変換が推奨されています(Spoelhof & Ide, American family physician, 1993)。家族が実施しやすいスモールチェンジ(小刻みな体位変換)も有効です。ギャッチアップは30度以下にとどめ、仙骨部へのずれ力を最小化します。圧抜きはグローブを活用し、臀部を片側ずつ持ち上げる方法が実施しやすいとされています。介護保険の福祉用具レンタルで体圧分散寝具を導入することも検討できます。

被覆材の選択基準は滲出液量に応じて判断します。

状態 選択例
滲出液少〜中等量、浅い創 ハイドロコロイド
滲出液多量 フォーム・アルギン酸
浸軟(浸潤)対策 周囲皮膚への撥水クリーム・交換頻度の調整

在宅では専用被覆材の入手が困難な場合があります。水道水洗浄は生理食塩水と同等の洗浄効果があると考えられており、代替として用いられる場面があります。

「治癒を目指さない」褥瘡ケア——終末期の緩和的スキンケアと保険切り替え

終末期や進行性難病の患者では、全身状態の低下により褥瘡の完全治癒が現実的でない場合があります。こうしたケースでの訪問看護における褥瘡ケアの目標は、治癒ではなく以下に移行します。

  • 痛みの軽減:処置時・安静時の疼痛コントロール
  • 臭気管理:感染コントロールと被覆材の適切な選択
  • 家族の心理的負担軽減:目標の共有と観察ポイントの指導

この判断は訪問看護師が独断で行うものではなく、医師・家族と目標を共有したうえで計画に明記するプロセスが重要です。

保険切り替えの判断フローは次の通りです。

  1. 褥瘡が真皮を超える状態に悪化
  2. 主治医が特別訪問看護指示書を発行(月2回・28日有効)
  3. ステーションで保険区分を介護保険から医療保険へ変更
  4. 特別管理加算・専門管理加算を算定

「真皮を超える褥瘡の状態にある者」は別表第8の対象となり、算定日数制限なしで医療保険による訪問看護が継続可能です(出典:厚生労働省・第4回在宅医療及び医療・介護連携WG資料)。

メディカルケアステーション等のICTツールを活用して褥瘡の画像を多職種間で共有することで、医師への報告が迅速化し、指示書交付のタイミングを逃さない体制が構築しやすくなります。

在宅褥瘡ケアの需要拡大とリスク

在宅褥瘡ケアについて多職種でカンファレンスを行う医療・介護チーム

訪問看護の利用者数は、介護保険で約55.4万人(令和元年)→約74.4万人(令和5年)、医療保険で約28.9万人→約48.4万人と増加傾向にあります(各年6月審査分より推計、厚生労働省)。将来推計では利用者の65歳以上が85.3%、75歳以上が73.6%に達する可能性があり(推計最大値時点、厚生労働省・第4回在宅医療WG資料)、訪問看護における褥瘡ケアの需要はさらに拡大する可能性があります。

一方、特定行為研修未修了の看護師が壊死組織の除去を行った場合、医師法・保助看法上の問題が生じるリスクがあります。褥瘡の悪化についても、ステーションとして記録・報告義務が問われる可能性があります。判断に迷ったら処置を控え、医師に指示を仰ぐことが鉄則です。

適性チェックリスト

自信を持って取り組める条件

  • DESIGN-R®2020評価が自力でできる
  • 特定行為研修修了、または受講を視野に入れている
  • 写真記録とICT共有のルーチンが確立している
  • 医師報告時に「所見+提案」をセットで伝えられる
  • 家族への教育指導に抵抗がない

準備が必要なサイン

  • 褥瘡の深達度分類に自信がない
  • 被覆材の選択を感覚で行っている
  • 医師報告が「悪化しています」だけになりがち
  • ステーション内に相談できる看護師がいない
  • 終末期の褥瘡ケア目標設定に関わった経験がない

該当項目が多い場合でも、WOCNへの相談や研修受講で段階的にスキルアップできます。

よくある質問

Q1. アルブミン値の目安と在宅での栄養評価は?

アルブミン値3.5g/dL以下が低栄養の指標の一つとされています。PEM(蛋白質・エネルギー低栄養状態)は褥瘡の発生・治癒遅延のリスク因子です。亜鉛・ビタミンC・アルギニンは褥瘡治癒に関連する栄養素とされており、管理栄養士と連携して補充計画を検討することが望ましいとされています。在宅では血液検査データが得にくい場合もあるため、体重変化・食事摂取量・BMIを簡易指標として併用するとよいでしょう。

Q2. 退院時共同指導で確認すべき褥瘡関連ポイントは?

以下を退院前に確認してください。

  • 創の状態・DESIGN-Rスコア・使用中の被覆材
  • 体圧分散寝具の種類・体位変換スケジュール
  • 栄養管理計画・次回医師評価のタイミング

訪問看護ステーションへの退院当日依頼は約40.2%にのぼる調査結果があり(回答数803、厚生労働省・第182回社会保障審議会介護給付費分科会資料)、退院直後から褥瘡ケアが始まるケースは少なくありません。

Q3. NPWTは在宅でも実施できますか?

医師の指示のもとで実施可能です。訪問看護師の役割はフィルム交換・創面の観察・報告が中心で、導入判断は医師が行います。壊死組織が残存する創や感染創には原則禁忌です。機器のアラーム対応を家族にも事前説明しておくことが重要です。

明日からできるアクションプラン

  1. 今日:自ステーションのDESIGN-R®2020評価シートと褥瘡ケアプロトコルを確認する
  2. 次回訪問まで:判断に迷う創は写真撮影→ICTで医師・WOCNに共有→方針を文書化する
  3. 中長期:特定行為研修(在宅領域の壊死組織除去等)の受講を、自分のスキルレベルと職場環境を見極めたうえで検討する

訪問看護の褥瘡ケアで患者と自分自身を守る鉄則は、「制度的根拠をもって判断できる範囲を明確にしておくこと」です。すべてを自己判断で行うのではなく、判断できる根拠を持って動くことが、安全なケアの基盤になります。

参考文献・引用データ

本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。

この記事の監修者
株式会社ゴルディロックス
代表取締役 / 理学療法士龍嶋 裕二(Yuji Ryushima)

理学療法士として大学病院にて超急性期から緩和ケアまで多岐にわたる臨床を経験。2013年に独立し、株式会社ゴルディロックスを設立。 現在、リハビリ特化型デイサービスや訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所等複数の事業を経営。またクリニックの運営やプロアスリートから子供の身体発育までをサポートするパーソナルトレーナーとしても活動中。医学的知見に基づいた地域密着型のヘルスケア環境づくりを牽引している。

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