訪問看護ステーションの選び方|後悔しない7つの比較軸

看護師
訪問看護師が住宅街を自転車で移動している様子

求人票には「月給35万円」「オンコール手当1万円」など魅力的な数字が並ぶ。しかしその数字だけで決めると、入職後にギャップを感じやすい。

求人票の数字だけでは、訪問看護ステーション選びに失敗する

2025年時点で全国の訪問看護ステーションは18,754か所(全国訪問看護事業協会・令和7年度調査)。前年の17,329か所から1,000か所以上増えており、選択肢は拡大し続けている。

一方で、1事業所あたりの常勤換算従事者数は8.0人(厚労省・令和3年)と小規模事業所が多く、規模・体制・オンコール負担は事業所間で大きく異なる。

「給与」「規模」「オンコール」だけ見ても、後悔は防げない

訪問看護ステーションの選び方を誤ると、入職後に「思っていたより夜間対応が多い」「教育体制がない」と感じるケースが生じやすい。給与・規模・オンコールの有無は入口に過ぎない。

本記事では、求人票の数字の裏にある「7つの比較軸」を、公的統計をもとに解説する。具体的に見ていきましょう。

規模・人員体制から見る「事業所のタイプ」

訪問看護ステーションのスタッフがミーティングをしている様子

訪問看護ステーションの選び方の出発点は、まず「事業所の規模と人員構成」の実態を把握することだ。日本訪問看護財団『訪問看護の現状とこれから 2025年版』によると、利用者数39人未満の小規模事業所が35.8%、100人以上の大規模事業所が19.9%を占める。業界は小規模と大規模に二極化している傾向があり、中間規模は少ない。

常勤換算ベースの職種構成は以下の通り。

職種 割合
看護師 63.7%
理学療法士 14.8%
作業療法士 6.4%
准看護師 4.2%

リハ職(PT・OT)比率が高い事業所は「リハ訪問中心」、看護師比率が高い事業所は「医療依存度の高い利用者対応中心」の傾向がある。

「常勤換算人数」で実態を見る

厚労省『社会保障審議会介護給付費分科会 参考資料』(令和3年)によると、1事業所あたりの常勤換算従事者数は8.0人、看護職員は5.6人。常勤換算とは実人数ではなく労働時間ベースの算出値だ。求人票に「スタッフ10名」とあっても、非常勤が多ければ常勤換算6人程度になる場合がある。「常勤換算で何人か」を必ず確認したい。

医療法人 vs 株式会社の傾向差

一般的な傾向として、医療法人系は病院との連携が強く医療処置対応に長けた事業所が多い傾向がある。株式会社系はICT導入・仕組み化が進んでいる事業所が多い傾向がある。ただし、個別差が大きく、運営母体だけでは判断できない場合も多い。

加算・体制から「事業所の収益力と教育力」を読む

訪問看護ステーションの管理者が加算算定状況をパソコンで確認している様子

求人票では見えない比較軸として特に重要なのが「加算算定状況」だ。算定加算の種類は事業所の専門性・体制を映す指標になる。

機能強化型訪問看護ステーションは全体の数%のみ

日本訪問看護財団『訪問看護サービス提供体制強化に向けた調査研究事業 報告書』(2025年8月・医療保険n=2,160)によると:

区分 算定率
機能強化型1 4.5%
機能強化型2 3.2%
機能強化型3 2.4%

機能強化型2の算定要件は「常勤看護職員5人以上・前年度ターミナル件数15件以上」(厚労省・令和6年度診療報酬改定届出基準)。教育・バックアップ体制が手厚い傾向があるが、ターミナル対応など業務負担も重くなりやすい面がある。

主要加算の算定率

同調査(介護保険n=2,137・医療保険n=2,160)より:

加算 算定率
特別管理加算(介護) 94.5%
ターミナルケア加算(介護) 77.2%
緊急時訪問看護加算Ⅰ(介護) 63.3%
緊急時訪問看護加算Ⅱ(介護) 35.2%
精神科訪問看護基本療養費(医療) 49.5%

特別管理加算・ターミナルケア加算の算定率が高い事業所は、医療ニーズの高い利用者を多く抱える傾向がある。精神科訪問看護基本療養費の算定は、精神科訪問に注力する事業所かどうかの一つの目安になる。

24時間対応体制加算の「イ」と「ロ」

医療保険ベースで、加算イ(業務負担軽減の取り組みあり)の算定率は61.9%・月6,800円、加算ロは34.0%・月6,520円(厚労省・令和6年度診療報酬改定の概要)。「イ」の算定有無は業務負担軽減への取り組みを示す指標となるため、求人票で確認したい。

専門・認定看護師の在籍は「希少」

日本看護協会『2024年度訪問看護実態調査』によると、専門看護師0人の事業所96.3%、認定看護師0人90.3%、特定行為研修修了看護師0人95.7%。在籍する事業所は希少だが、高度な教育環境を重視する場合の重要な指標となる可能性がある。

知っておきたい制度用語

用語 概要
訪問看護指示書 医師が発行する指示文書。医療・介護保険どちらでも必要
ケアプラン(居宅サービス計画書) 介護保険利用時にケアマネが作成する支援計画
医療保険と介護保険の適用区分 原則介護保険優先。特定疾患・精神疾患等は医療保険適用
退院時共同指導加算 退院前に病院で指導参加した際に算定可能
指定訪問看護事業者の基準・運営規程 都道府県の指定要件と事業運営の規則文書
小児慢性特定疾病・難病医療費助成 対象疾患は医療保険適用が多く、対応実績が専門性の指標に
電子レセプト・国保連伝送 介護保険請求の電子申請。ICT整備水準の指標にもなる
法定研修(管理者・現任者研修) 事業所が実施義務を負う研修。実施状況は教育力の参考に

オンコール・給与・ICT活用から見る「日々の働き方」

オンコール「1人対応」が標準

日本看護協会『2024年度訪問看護実態調査』(n=1,879)によると、夜間のオンコール体制が90.6%。夜間対応なしはわずか6.5%にとどまる。オンコール事業所のうち一晩1人対応が75.3%、2人対応は23.4%だ。

看護職員5人未満の事業所ではオンコール率89.8%、5〜10人未満では94.5%。小規模事業所ほど1人あたりの当番頻度が高くなりやすい傾向がある。求人票では「月の当番回数」と「出動時のオンコール手当」を必ず確認したい。

給与水準と賃上げ制度

給与水準は事業所の規模・加算算定状況により異なる。厚労省『介護保険最新情報 Vol.1454』(令和7年12月)によると、訪問看護への賃金改善経費の交付率は13.2%。2025年度以降、賃上げを支援する補助制度が整備されている。

ICT活用状況は見学時に確認する

電子カルテ・ビジネスチャット・MCS(メディカルケアステーション)等のICT活用による情報共有の仕組みは、記録時間・移動効率・残業時間に影響する可能性がある。導入状況は求人票に載りにくいため、見学時に「使用ツール」「スマートフォンでの訪問記録の可否」を直接確認することを勧める。

以上の比較軸を持つことが、訪問看護ステーションの選び方で入職後のギャップを減らすための有力なアプローチとなる可能性がある。

2026年以降の訪問看護ステーション選びで起こりうる2つのシナリオ

事業所数は2023年の16,423か所から2025年には18,754か所(全国訪問看護事業協会・令和7年度調査)へ急増した。今後も選択肢は増える可能性がある。

しかし、機能強化型訪問看護管理療養費の算定率は1・2・3合計でも10%程度にとどまる(日本訪問看護財団・2025年8月調査)。教育・バックアップ体制が手厚い事業所は少数派の状態が続く可能性があり、「数が増えた分、目利き力がより重要になる」と言える状況だ。

リスク面では、看護職員が常勤換算3人未満の事業所が全体の17%(厚労省推計)存在する。求人票に「アットホーム」「少人数で和気あいあい」と書かれた事業所こそ、人員体制と離職率を面接時に確認すべきだ。

自分に合う事業所を選ぶ:適性チェックリスト

訪問看護師が面接でステーション管理者と事業所の体制について確認している場面
重視する点 確認すべき指標
教育体制 機能強化型1・2算定、専門/認定看護師在籍、法定研修(管理者研修・現任者研修)の制度が明確か
医療依存度の高いケア 特別管理加算・ターミナルケア加算の算定
ワークライフバランス 24時間対応体制加算「イ」算定・ICT導入・看護職員5人以上
精神科・小児・難病特化 精神科訪問看護基本療養費の算定、小児慢性特定疾病・難病医療費助成制度の受け入れ実績

慎重に検討すべき事業所の特徴

  • 常勤換算3人未満で24時間対応(オンコール負担が個人に集中しやすい傾向がある)
  • 加算算定状況を具体的に説明できない
  • 給与に「みなし残業込み」「オンコール手当込み」など内訳が不明瞭

よくある質問(FAQ)

Q1. 訪問看護の給与は病院より高い?

一概には言えない。厚労省『介護保険最新情報 Vol.1454』では訪問看護への賃金改善経費の交付率が13.2%と示されており、2025年以降は処遇改善を支援する補助制度が整備されている。ただし、基本給は事業所の規模・加算算定状況により異なる。求人票では「基本給」「オンコール手当(月当番回数別)」「賞与実績(直近3年)」を項目ごとに分けて確認すること。

Q2. オンコールの実態はどう確認する?

日本看護協会『2024年度訪問看護実態調査』によると、90.6%の事業所でオンコール体制があり、うち75.3%が一晩1人対応。面接時に「月の当番回数」「1晩あたりの出動実績」「2人体制か否か」を直接質問することが有効な場合がある。

Q3. 小規模事業所の人間関係は?

公的統計に直接の指標はないが、看護職員5人未満の事業所が57%(厚労省推計)を占め、人間関係の比重が大きくなりやすい傾向がある。見学時にスタッフ同士の会話や管理者の対応を観察することが、現実的な確認方法の一つだ。

訪問看護ステーションの選び方を実践する3ステップ

  1. ステップ1 機能強化型の算定区分・退院時共同指導加算・電子レセプト(国保連伝送)の整備状況を面接前に質問する。
  2. ステップ2 見学時に必ず確認する:①月のオンコール当番回数と出動実績、②ICT活用状況(MCS等)、③常勤換算人数と実人数のギャップ。
  3. ステップ3 複数事業所を比較し、給与だけでなく「自分が成長したい方向(専門領域・教育体制・医療依存度)」と合致するかで判断する。

事業所数が18,000か所を超えた今こそ、求人票の数字の裏にある体制・制度・現場の実態を自分で確かめてから決めることが、後悔しない訪問看護ステーション選びへの有力な一歩となる可能性がある。

参考文献・引用データ

本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。

この記事の監修者
株式会社ゴルディロックス
代表取締役 / 理学療法士龍嶋 裕二(Yuji Ryushima)

理学療法士として大学病院にて超急性期から緩和ケアまで多岐にわたる臨床を経験。2013年に独立し、株式会社ゴルディロックスを設立。 現在、リハビリ特化型デイサービスや訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所等複数の事業を経営。またクリニックの運営やプロアスリートから子供の身体発育までをサポートするパーソナルトレーナーとしても活動中。医学的知見に基づいた地域密着型のヘルスケア環境づくりを牽引している。

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