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回復期リハビリテーション病棟で働くPT・OT・STの多くが、一度は考える転職先が訪問リハビリテーションです。
「回復期から訪問リハへ転職したら、給料は下がるのか」「土日休みは取れるのか」「残業はどう変わるのか」──こうした疑問は、現場で忙しく働きながらも、なかなか答えを出せない問いです。
実はデータを見ると──「平均年収」だけでは答えが出ない理由
令和6年賃金構造基本統計調査によると、PT・OT・ST等の合算平均年収は444万1,500円(PTOT人材バンク掲載)です。ただし、この数値は病院・介護施設・訪問事業所すべてを含む合算値であり、訪問リハ単独の年収を示すものではありません。
訪問リハの年収は、以下の要因で大きく変わります。
- 勤務形態:病院併設の訪問リハ事業所か、訪問看護ステーションからの訪問か
- インセンティブの有無:訪問件数に連動する歩合制があるか
- 1日の訪問件数:件数が収入に直結する職場も多い
条件次第で年収が上がる人もいれば、思ったほど変わらない・むしろ下がるケースもあります。「訪問は儲かる」とも「楽になる」とも、一概には言えません。
この記事では、年収の構造的な違い・制度上の仕組み・向き不向きの判断軸を順に整理していきます。具体的に見ていきましょう。
訪問リハと回復期、年収はどれだけ違うのか

先ほど触れた通り、「訪問リハ=年収アップ」とは一概に言えません。まず統計データで全体像を確認します。
PT年齢別平均年収(令和5年賃金構造基本統計調査)
| 年齢 | 平均年収 |
|---|---|
| 20〜24歳 | 341万5,000円 |
| 25〜29歳 | 387万2,000円 |
| 30〜34歳 | 420万7,000円 |
| 35〜39歳 | 458万円 |
| 45〜49歳 | 505万1,000円 |
※職種区分は「理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士」の合算である可能性があります。PT単独値かどうかは出典元での確認が必要です。
年収は年齢とともに大きく上昇します。30代で回復期から訪問リハへ転職する場合、この水準(420〜458万円)が一つの参考になります。
令和6年賃金構造基本統計調査では、PT・OT・ST等の合算平均年収は444万1,500円(平均月収31万1,400円、平均賞与70万4,700円、平均年齢35.5歳)。全産業平均526万9,900円との差は82万8,400円にのぼります(PTOT人材バンク掲載、職種区分はPT・OT・ST・視能訓練士の合算)。
日本理学療法士協会の政策要望書(2025年11月)によれば、医療・福祉産業の平均賃金月額は306,400円(令和6年賃金構造基本統計調査・産業別)で、全産業平均との年収差は「約36万円」とされます。ただし、これは同協会が国税庁・人事院データをもとに作成した加工値です。
訪問リハ単独の年収を示す公的統計は存在しません。年収は以下の条件で変わる傾向があります。
- 事業所種別:病院・診療所併設の訪問リハ事業所か、訪問看護ステーションからPT・OT・STが訪問するかで算定根拠が異なります
- インセンティブ制度の有無:訪問1件あたり手当を上乗せする歩合制がある事業所では、件数次第で年収が高くなる傾向があります
- 1日の訪問件数:目安として5〜8件ですが、移動距離・記録時間次第で実績件数は変わります
報酬の仕組みが違う──診療報酬と介護報酬、医療保険と介護保険の並行運用
回復期から訪問リハへの転職で見落とされがちなのが、報酬制度の根本的な違いです。
回復期リハビリテーション病棟は診療報酬(医療保険)で運営されます。令和6年度改定後、回復期リハビリテーション病棟入院料4は1,841→1,859点となりました(出典:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定)。
一方、訪問リハビリテーションの多くは介護報酬(介護保険法)で算定されます。利用者は原則1〜3割を自己負担し、ケアマネジャー(介護支援専門員)が作成するケアプランに基づいてサービスが提供されます。ケアマネジャーとの連携は業務上必須です。
令和6年度介護報酬改定の主な変更点(出典:厚生労働省、全国老人保健施設協会、カイポケ・トリケアトプス資料)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 訪問リハビリテーション費(基本報酬) | +1単位 |
| 介護予防訪問リハビリテーション費 | −9単位 |
| 退院時共同指導加算(新設) | 600単位/回(2024年6月施行) |
| リハビリテーションマネジメント加算(ロ) | 213→483単位/月 |
| 口腔連携強化加算(新設) | 50単位/回 |
| 自立支援促進加算 | 300単位/月 |
| 科学的介護推進体制加算 | 40〜60単位/月 |
算定根拠の違いも重要です。医療機関が設置する訪問リハ事業所では「リハビリテーション費」として介護報酬を算定しますが、訪問看護ステーションからPT・OT・STが訪問する場合は「訪問看護」として算定します。同じ「訪問リハ」でも単位数体系と業務の枠組みが異なるため、転職先がどちらの算定区分に属するかを事前に確認することが重要です。
ADL(日常生活動作)への早期介入の重要性も制度に反映されています。平成27年度介護報酬改定検証調査(令和6年改定参考資料)によると、退院後14日未満に訪問リハを開始した場合はBarthel Indexが5.8ポイント向上、14日以上では3.3ポイントにとどまります。この知見が退院時共同指導加算(600単位/回)新設の根拠の一つとなっており、回復期との早期連携が制度的に要請されています。
訪問リハの1日と、回復期から移って活きるスキル

訪問件数は目安として1日5〜8件程度とされています。直行直帰が認められる事業所も多く、土日休みを取りやすい環境の事業所もある傾向です。ただし、訪問看護ステーション所属の場合はオンコール当番が求められることがあります。
回復期から訪問リハへ転職した際に即戦力となるスキルは以下です。
- ADL・FIM評価:回復期で身につけた機能評価の視点が、訪問現場でのゴール設定に直結します
- 住環境整備:自宅復帰率を意識した退院支援の経験が、福祉用具選定・住宅改修の提案力になります
- 生活期リハビリテーション:地域包括ケアシステムの中で、医療と介護の橋渡し役を担えます
インセンティブ制度を導入する事業所では、訪問件数が安定すれば年収が回復期時代より上がる傾向があります。一方、件数が伸びない時期は固定給ベースにとどまる構造的リスクも存在します。固定給とインセンティブの比率は、転職前に必ず確認しておくべき項目です。
訪問現場では終末期ケアへの対応が求められることもあります。終末期ケア専門士などの専門資格が評価されるケースがあり、看取り対応の経験が選べる事業所の幅を広げる可能性があります。
なお、参考データとして、障害福祉サービス分野(医療・介護保険とは別制度)の厚生労働省調査(令和7年度)では、理学療法士・作業療法士の平均給与額は404,590円(令和7年7月、前年同月比+20,230円)。介護・訪問分野においても処遇改善加算の配分対象となり得る事業所があり、加算の取得状況が年収に影響する可能性があります。
5年後のシナリオ──年収と働き方はどう変わりうるか
可能性が高いシナリオ
訪問件数が安定しインセンティブが乗ると、回復期時代より年収が30〜80万円程度高くなる傾向があります。ケアマネジャー(介護支援専門員)・訪問看護師・医師との多職種連携スキルが蓄積され、生活期リハの専門家として評価されやすくなる可能性があります。回復期で培ったFIM等のアウトカム評価と在宅移行後の生活機能維持指数(生活期指標)の相関を意識して働ける人材は、データドリブンな事業所運営の中で重用されやすい傾向があります。
リスクシナリオ
訪問エリアの利用者数が伸び悩む場合、固定給比率が高い事業所では年収がほぼ変わらない、または下がるケースがあります。1人訪問の精神的負担や移動疲労も軽視できません。令和6年度介護報酬改定では介護予防訪問リハが−9単位と引き下げられており、今後の改定が収入に直接影響するリスクが存在します。介護報酬は複数年ごとに見直されるため、現在の条件がそのまま維持されるとは限りません。
訪問リハ転職に向いている人・慎重になるべき人
以下のリストを使って、自分の志向と現状を照合してください。
向いている人
- 自宅復帰率を意識した退院支援の経験がある
- 生活期リハや住環境整備(福祉用具・住宅改修)に関心がある
- 単独訪問でも自律的に判断できる
- ケアマネジャー・訪問看護師との調整が苦にならない
- 終末期ケアに前向きに関わりたい(終末期ケア専門士等に関心がある)
- 特定行為研修などのスキルアップに意欲がある
慎重になるべき人
- チーム内の多職種カンファに大きな価値を感じる
- 給与の固定部分を最優先したい
- 運転が苦手、または長距離移動が身体的に負担になる
- 回復期での管理職キャリアを描いている
- オンコール・緊急対応の心理的負担を避けたい
よくある質問
Q1. 回復期から訪問リハに転職すると、年収は本当に上がりますか?
訪問リハ単独の年収を示す公的統計はありません。令和6年度改定で基本報酬は+1単位にとどまりました。インセンティブ制度の有無と訪問件数次第で年収は大きく変わる傾向があり、複数の事業所を比較した上で判断することをお勧めします。
Q2. 訪問看護ステーション所属の場合、オンコールや土日対応はありますか?
事業所により異なります。医療機関併設の訪問リハ事業所ではオンコール対象外の場合が多い傾向がありますが、訪問看護ステーション所属のPT・OT・STは事業所の方針次第です。「オンコール対象外」を条件にするなら、面接で必ず確認してください。
Q3. 1人訪問が中心ですが、人間関係の悩みは減りますか?
院内の固定的な人間関係は変わります。一方で、ケアマネジャー・利用者家族・他事業所との対外調整が増える傾向があります。「人間関係がなくなる」ではなく「性質が変わる」と捉えておくことが現実的です。
次のアクション──情報収集の順番

回復期からの転職を検討する際は、以下の順番で情報を整理してください。
- 現状を書き出す:年収・賞与・残業時間・休日数
- 事業所種別を確認する:医療機関の訪問リハ事業所か、訪問看護ステーション所属のPT/OT/STか
- 面接で必ず確認する項目:
- 給与体系(固定/歩合/インセンティブ比率)
- 想定訪問件数(1日・月間)
- オンコール・土日対応の有無
- 利用料徴収・自己負担額の案内業務の範囲
- 複数年の年収シミュレーション:介護報酬改定のたびに単位数は動く。現在の条件だけで判断しないこと
訪問リハは年収・働き方ともに条件次第です。回復期から訪問リハへの転職は、感情ではなく数字と制度で検討すれば、納得できる選択になりやすい傾向があります。
参考文献・引用データ
本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。
- 【PTOT人材バンク】作業療法士の平均給料・手取りと年収アップの解消法
- 【厚生労働省】令和7年度障害福祉人材の確保及び処遇状況等に関する調査結果
- 【日本理学療法士協会】医療従事者の処遇改善に向けた税制優遇措置の導入に関する政策要望
- 【神戸医療福祉専門学校】20代の理学療法士の平均年収(給料)と作業療法士との違い
- 【星城大学】リハビリ系の年収は低い?職種・経験・勤務先別に徹底解説!
- 【トリケアトプス】2024年度(令和6年度)訪問リハビリテーションの介護報酬改定ポイントまとめ
- 【カイポケ】2024年度(令和6年度)訪問リハビリテーションの介護報酬改定情報まとめ
- 【厚生労働省】令和6年度 介護報酬改定について(第220回社会保障審議会介護給付費分科会資料)
- 【全国老人保健施設協会】令和6年度介護報酬改定について(詳細資料)
- 【厚生労働省】令和6年度介護報酬改定における改定事項について
- 【厚生労働省】令和6年度介護報酬改定の主な事項について
- 【厚生労働省】令和6年度診療報酬改定【全体概要版】
- 令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)
- 【厚生労働省】令和7年度第8回 入院医療等の調査・評価分科会 別添資料

