理学療法士の退職理由は甘え?給与天井と制度の壁

看護師

目次

デスクで考え込む理学療法士の男性

「退職したい気持ちはあるけど、これって甘えじゃないか」と感じていませんか。自分だけが弱いのか、それとも業界全体の問題なのか——その答えは、正確なデータを見れば客観的に判断できます。

理学療法士に特化した離職理由の公的統計は存在しない

まず重要な事実をお伝えします。理学療法士の離職率・退職理由に限定した公的統計は、2026年5月時点で存在しません。

ネット上で見かける「理学療法士の退職理由ランキング」の多くは、民間調査や個人の体験談が中心です。業界全体を代表するデータとは言えない点に注意が必要です。

それでもデータから見える「辞めたくなる構造」がある

ただし、理学療法士を取り巻く給与構造・診療報酬制度・転職市場のデータは、複数の公的統計から読み取れます。

これらを正確に把握すれば、自分の理学療法士の退職理由が「個人の問題」なのか「構造的な問題」なのかを切り分けられます。

この記事では楽観論に偏らず、「今の職場で改善できる余地はないか」「転職先で同じ問題に直面しないか」を考える材料も提供します。具体的なデータと構造を、順に見ていきましょう。

理学療法士の退職理由を生む「給与天井」の仕組み──診療報酬・介護報酬と単位数の壁

病院リハビリ室で歩行訓練を補助する理学療法士

診療報酬・介護報酬の改定がリハビリ部門の収益を規定する構造

「給与が上がらない」という理学療法士の退職理由には、個人の能力とは別の構造的な背景があります。

医療保険のリハビリは1単位20分・1日最大18単位という算定上限が設定されています。診療報酬・介護報酬の改定がなければ、部門全体の売上には実質的な天井があります。個人がどれだけ質の高い介入を行っても、部門収益の上限は変わりません。

賃金構造基本統計調査は医療・介護職の処遇を定期的に公表していますが、問題の本質は年収の水準より「上がりにくさの構造」にあります。

賃上げ率の格差と物価高騰との乖離

区分 令和6年度賃上げ率
全産業(春闘・連合回答集計) 5.10%
介護事業所(団体調査) 2.52%

差は2.58ポイント。加えて、消費者物価は2018年比で総合+9%・食料+20%上昇しています(厚生労働省「医療機関等をとりまく状況」会議資料・2024年時点)。「昇給はしているのに生活が楽にならない」という実感は、データで裏付けられます。

ベースアップ評価料による賃金増率の加重平均は2.74%(令和7年3月時点・届出36,348件、厚生労働省同資料)。制度的な手当てはあるものの、物価上昇には追いついていない状況です。

医療・介護業界の離職率と転職市場のデータ

多職種連携カンファレンスに参加する理学療法士

介護分野の離職率分布──半数の事業所は離職率10%未満

離職率 事業所割合
10%未満 50.7%
10〜19%台 23.2%
20〜29%台 13.0%
30%以上 13.1%

(厚生労働省「介護等分野の入職・離職率の推移に関する参考資料」)

平均値だけを見ると穏やかに映りますが、事業所間の格差は大きい傾向があります。「業界全体の離職率が高い」と一般化することは適切ではありません。入職超過率は2022年に-1.6%と離職超過に転じましたが、2023年は+2.4%(推計約8.2万人の入職超過)に回復しています。処遇改善加算等の制度変更が背景にある点も念頭に置く必要があります。

転職者数331万人・正規→正規88万人(2024年)

2024年の転職者数は331万人(3年連続増加)、15〜54歳の正規→正規転職者は88万人と過去最高水準です(厚生労働省「令和7年版 労働経済の分析」)。転職は今や特殊なキャリア選択ではありません。

多職種連携・タスクシフトが変える業務範囲

看護師からのタスクシフト先として理学療法士を選択している病院は44.6%です(日本看護協会「2024年病院看護実態調査」・タスクシフト実施病院n=2,412)。多職種連携の拡大は専門性を活かす機会になりうる一方、業務負担の増加が理学療法士の退職理由につながる場合もあります。

なお同調査では、職種は異なりますが新卒看護師の退職理由として「精神的疾患」49.4%・「適性への不安」45.5%が上位でした。医療職に共通する傾向の参考情報として示します。

キャリアパスの選択肢と退職前に確認すべき制度・法律

認定理学療法士・専門理学療法士──自己研鑽は処遇に反映されるか

認定理学療法士・専門理学療法士の取得は自己研鑽として意義がありますが、取得が直接昇給に結びつく職場は限定的な傾向があります。管理職ポストの少なさという構造的課題も重なり、資格取得のみで処遇改善を見込むのは難しい場合があります。

訪問リハビリテーション・機能訓練指導員・業務委託という働き方

臨床内での選択肢として、訪問リハビリテーション・機能訓練指導員(介護施設)・業務委託(非常勤・フリーランス)があります。勤務形態や収入安定性がそれぞれ異なるため、自分のライフスタイルと照らし合わせた検討が重要です。

非臨床職への転換──スキルセット分析

医療機器メーカーやMSなど非臨床職への転換では、「身体機能評価・多職種連携経験・患者コミュニケーション」というスキルが活かせる場合があります。ただし、非臨床職の求人数は限定的であり、臨床経験を手放すリスクも伴います。全員に適した選択肢とはいえません。

退職届・就業規則・労働基準法──辞める前に知るべきルール

項目 内容
民法627条 退職申出から2週間で退職可能
就業規則 多くの職場で1〜3か月前申出を規定
有給休暇 労働基準法上の権利として取得可能

法的には2週間前の申出で退職できますが、就業規則の退職申出期間と引き継ぎ期間を事前に確認することが、円満退職への実務的な第一歩です。

理学療法士の退職理由を「構造」で整理したうえでの判断基準

高齢者宅で訪問リハビリを行う理学療法士

楽観シナリオ──医療・福祉就業者数は2040年に1,060万人規模へ

医療・福祉分野の就業者数は2018年の823万人(12.5%)から、2040年には1,060万人程度(19%程度)に増加する推計があります(厚生労働省「地域包括ケアシステムの深化」会議資料・暫定値)。認知症高齢者数も2022年の443.2万人から2040年には584.2万人に達する推計であり、リハビリ人材への需要は長期的に底堅い可能性があります。

リスクシナリオ──転職先でも同じ給与天井に直面する可能性

需要増が即・待遇改善につながるとは限りません。診療報酬・介護報酬の構造的な上限は転職先でも変わらない場合があります。「職場固有の問題」と「業界構造の問題」を区別できているかが、理学療法士の退職理由を判断する分岐点です。

「今の職場を辞めるべきか」適性チェックリスト

3つ以上当てはまる場合、転職を具体的に検討する価値がある可能性があります。

  • 退職理由が「人間関係・不当な時間外労働」など職場固有の問題と特定できている
  • 転職先でその問題が解決するか、求人票・面接で確認する準備がある
  • 有給休暇消化率が著しく低く、職場内での改善見込みがない
  • 管理職ポストが実質存在せず、キャリアパスが閉じている
  • 就業規則の退職申出期間と有給残日数を確認済みである
  • 訪問リハビリ・業務委託など他の働き方と具体的に比較した

向いていない転職パターン:漠然とした不満だけで候補先を絞り込んでいる場合、条件確認をエージェント任せにしたまま面接に臨む場合は、転職後に同じ課題に直面しやすい傾向があります。

理学療法士の退職理由に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 理学療法士の離職率はどのくらいですか?

理学療法士に限定した離職率の公的統計は存在しません。参考として、介護事業所の50.7%は離職率10%未満です(厚生労働省「介護等分野の入職・離職率の推移に関する参考資料」)。実態把握には、応募先の離職率を面接で直接確認するのが最も実用的な方法です。

Q2. 退職理由が「給与が低い」では転職面接で不利になりませんか?

「給与への不満」をそのまま伝えるより、「診療報酬・介護報酬の構造上、現職では年収向上に限界がありました。貴院では○○の体制があると理解しています」という説明に変換することで、構造的な自己分析力を示せる場合があります。

Q3. 有給休暇消化率が低い職場でも、退職時に有給を使えますか?

労働基準法上、有給休暇の取得は労働者の権利であり、退職時も原則として使用できます。有給休暇消化率が低い職場も存在しますが、就業規則の退職申出期間・有給残日数を事前に確認し、計画的に消化することが実務的なステップです。

退職を決める前の3つのアクションプラン

退職・転職の計画を立てる理学療法士の女性
  1. 退職理由を分類する──「職場固有の問題」か「業界構造の問題」かを書き出す
  2. 確認リストを作る──面接で「有給消化率・管理職ポスト数・処遇改善加算の種類」を確認する
  3. 手続きを整える──就業規則の退職申出期間・有給残日数・引き継ぎ計画を確認してから退職届を提出する

理学療法士の退職理由は「甘え」ではなく、構造的な問題を含む場合があります。ただし、構造を正確に理解し、転職先でその問題が解決するかを確認してから進むことが、後悔しない選択につながる可能性があります。

参考文献・引用データ

本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。

この記事の監修者
株式会社ゴルディロックス
代表取締役 / 理学療法士龍嶋 裕二(Yuji Ryushima)

理学療法士として大学病院にて超急性期から緩和ケアまで多岐にわたる臨床を経験。2013年に独立し、株式会社ゴルディロックスを設立。 現在、リハビリ特化型デイサービスや訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所等複数の事業を経営。またクリニックの運営やプロアスリートから子供の身体発育までをサポートするパーソナルトレーナーとしても活動中。医学的知見に基づいた地域密着型のヘルスケア環境づくりを牽引している。

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