理学療法士の年収600万は可能?到達できる職場の条件

看護師
病院のリハビリ室で患者を補助する日本人理学療法士

「このまま働き続けても、年収600万円には届かないのではないか」——そんな漠然とした不安を抱える理学療法士は少なくありません。

実は統計を見ると、平均は決して高くないが「天井」でもない

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士(4職種合算)の賞与込み給与は月額34.6万円、平均年齢34.6歳、平均勤続年数6.6年です。

※この数値は4職種を合算した区分であり、理学療法士単独のデータではありません。また、月額34.6万円を12倍すると約415万円となりますが、これは賞与込み給与(月次給与+前年賞与の1/12)を基にした近似値であり、原資料に年収として明示された数値ではありません。

平均水準は高くありません。ただし、これは「上限」ではないという点が重要です。

職場の種別・役職・働き方の選択次第で、600万円に到達するルートは存在します。 ただし誰もが自動的に届くわけではなく、そこには明確な条件があります。

この記事では、楽観論にも悲観論にも偏らず、「自分がその条件を満たせるか」を判断するための材料を具体的に示していきます。

市場の事実 ― 賃金構造基本統計調査が示す年収600万円までの距離

理学療法士の年収統計データをPCで確認する様子

先ほど確認した通り、厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』のPT・OT・ST・視能訓練士(4職種合算)区分では、月額34.6万円・平均年齢34.6歳・勤続年数6.6年です。

星城大学コラム(2026年3月公開)が示した推計目安(一次統計ではなくコラムによる推計値)では、30代の年収は約420〜470万円、40〜50代でも約450〜500万円台とされています。職場種別では訪問リハビリ・在宅医療分野が約400〜450万円と推計されており、領域選択によって差が生じる場合があります。

理学療法士の年収600万円には、この水準からおよそ100〜180万円の上乗せが必要な計算になります。基本給の自然な上昇カーブだけでは容易ではなく、役職手当・時間外労働手当・インセンティブ制度など何らかの上乗せ要因が不可欠です。なお、基本給と賞与の内訳は事業所ごとに異なります。賞与で総額をかさ上げしているケースと基本給が高いケースでは安定性が異なるため、求人票で内訳を確認することが重要です。

転職市場は活発です。マイナビコメディカルのPT向け公開求人は約19,171件(2026年3月時点)、PTOTSTワーカーは17,017件(2026年2月時点)に上ります。ただし求人数と年収水準は別物であり、件数の多さが高年収を意味するわけではありません。

制度の事実 ― 診療報酬制度・介護保険法が基本給を規定する構造

理学療法士の基本給の原資は、診療報酬制度・介護保険法に基づく報酬です。介護保険法の下では、訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションの提供単位数ごとに報酬が算定されます。リハビリテーション単位数と施設基準が事業所の収益上限を決め、それが個人の基本給に反映される仕組みです。

賃上げ政策は追い風です。財務省資料(財政制度等審議会提出資料)では、医療・介護従事者のベースアップ目標としてR6年度2.5%・R7年度2.0%(定期昇給込みではそれぞれ4.0%程度・3.5%程度)が示されています。令和6年度診療報酬改定では入院ベースアップ評価料(1点単位で最大165点)が設けられ、施設基準として基本給引上げ率4.5%以上などの要件も定められました。

ただし恩恵は一様ではありません。厚労省・中医協参考資料によると、医療関係職種のきまって支給する現金給与額は2018年の308.8千円から2024年には340.4千円へ上昇した一方、同年の産業計は359.6千円であり、差が残っています。福祉医療機構(WAM)の『2024年度介護報酬改定アンケート』では、通所リハビリテーションのベースアップ予定あり割合が2024年度の26.4%から2025年度は9.2%へ大幅に低下しています。制度による賃上げは追い風ですが、職場によって恩恵にばらつきが生じる可能性があります。

現場の事実 ― 年収600万円に近づける職場・キャリアの類型

訪問リハビリで高齢患者の歩行訓練を支援する理学療法士

よくある事例として、理学療法士の年収600万円に近づくルートは以下の4つに類型化できます。

ルート 概要 主な上乗せ要因 主なリスク
①管理職 主任・部長などの役職就任 役職手当 ポストの空き・競争
②訪問リハビリ 成果報酬型・インセンティブ制度 件数連動報酬 移動負担・件数変動
③専門資格 認定・専門理学療法士の取得 資格手当・加算評価 取得・維持コスト
④自費・開業 自費リハビリテーション・独立開業 収益上限なし 集患・経営負担

①の管理職ルートでは、主任・部長職の就任で月数万円の役職手当が加算される事業所が多い傾向があります。②の訪問リハビリテーションでは、訪問件数に連動した成果報酬型給与やインセンティブ制度を採用する事業所が増える傾向があります。③の認定理学療法士・専門理学療法士については、日本理学療法士協会が設ける認定制度を活かし、資格手当として評価する事業所もあります。

④の自費リハビリテーション・独立開業は、星城大学コラム(2026年3月)が「成功した場合の一例」として約400〜800万円程度と推計しています。ただし保険外サービスとして提供する場合、医師法第17条上の医行為に該当しないよう注意が必要です。地域包括ケアシステムの枠組みとの整合性を踏まえた設計も求められます。集患リスクや経営負担も大きく、リスクと条件をセットで把握することが重要です。

産業理学療法士という選択肢 ― 企業向けBtoB契約で高単価を狙う

一般企業の労働安全衛生管理に介入する「産業理学療法士」も、注目が高まりつつある選択肢の一つです。腰痛予防プログラム・健康経営支援などを企業とBtoB契約で提供するスキームで、保険診療の単位数制限に縛られない収益構造を構築できる可能性があります。医療機器メーカーへの転身と並ぶ保険外収益の代表例の一つです。

ただし市場は未成熟です。安定した契約先を獲得するには営業力・マーケティングスキルが求められ、収入が不安定になる場合があります。提供するサービスが医行為に該当しないよう医師法第17条の境界を意識した設計が必要な点も、事前に把握しておくべき留意事項です。理学療法士として年収600万円を目指す上で、産業領域は可能性のある選択肢の一つですが、現時点では事前のリスク検証が重要です。

参考文献・引用データ

本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。

この記事の監修者
株式会社ゴルディロックス
代表取締役 / 理学療法士龍嶋 裕二(Yuji Ryushima)

理学療法士として大学病院にて超急性期から緩和ケアまで多岐にわたる臨床を経験。2013年に独立し、株式会社ゴルディロックスを設立。 現在、リハビリ特化型デイサービスや訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所等複数の事業を経営。またクリニックの運営やプロアスリートから子供の身体発育までをサポートするパーソナルトレーナーとしても活動中。医学的知見に基づいた地域密着型のヘルスケア環境づくりを牽引している。

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