訪問リハビリの年収はなぜ差がつく?給与の決まり方

看護師
訪問リハビリに向かう日本人理学療法士

求人票に「年収500万円可」と「年収380万円」が並ぶ。どちらも訪問リハビリの求人なのに、この差は何を意味するのか——そんな疑問を抱えている方は多いはずです。

実は、リハ職全体の平均年収は443.6万円。ただし「平均」は職場選びの羅針盤にならない

厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」によると、PT・OT・ST・視能訓練士4職種合算の推定年収は443.6万円(平均年齢36.2歳・平均勤続年数8.4年・労働者数279,650人)です。

ただし、これは病院・施設・訪問を含む全勤務形態の合算値であり、訪問リハビリ限定の数字ではありません。

訪問リハビリの年収は、基本給よりもインセンティブ(歩合給)や基準訪問件数といった給与体系の設計で大きく変動します。件数を積めれば500万円超も現実的ですが、移動時間が長いエリアや件数を追えない時期は収入が伸びにくい現実もあります。

「平均値」ではなく、給与が決まる構造そのものを理解することが重要です。具体的な仕組みを次の章から見ていきましょう。

統計が示す「年齢で上がる給与」と訪問リハビリ年収の違い

年齢別・職種別の訪問リハビリ年収比較を確認するセラピスト

病院・施設は年功型、訪問リハビリは基準訪問件数とインセンティブが主役

大阪リハビリテーション専門学校がまとめた「令和5年賃金構造基本統計調査(一般労働者・職種別第5表)」によると、年齢別の推定年収は以下の通りです。

年齢層 推定年収
20代 約364万4,000円
30代 約439万2,000円
40代 約487万8,000円
50代 約542万8,000円

病院・施設では、勤続年数とともに給与が上がる構造が機能しやすい傾向があります。

一方、訪問リハビリ年収の仕組みは異なります。基本給のウェイトが相対的に低く、基準訪問件数インセンティブ(歩合給)が給与総額を左右する事業所が多い傾向があります。臨床経験年数が浅くても件数を安定的にこなせれば平均を上回る可能性がある半面、年功で自動的に上がりにくい点に注意が必要です。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のいずれの職種でもこの傾向は共通して見られます。男女別では男性466.8万円・女性417.3万円の差があり(厚労省「令和7年賃金構造基本統計調査」)、平均勤続年数の差(男性9.2年・女性7.6年)が一因である可能性があります。

訪問リハビリ年収の源泉は「介護報酬の単位数」にある

利用者宅で訪問リハビリを実施するセラピストと高齢者

訪問リハビリの給与原資は介護報酬です。令和6年度介護報酬改定(2024年6月1日施行)では本体改定率+1.59%のプラス改定となりました(トリケアトプス・カイポケ資料)。

加算名 単位数 備考
リハビリテーションマネジメント加算(ロ) 483単位/月 改定前213単位から拡充
自立支援促進加算 300単位/月 体制加算
退院時共同指導加算 600単位/回 新設
認知症短期集中リハビリ実施加算 240単位/日 新設・週2日限度

(出典:全国老人保健施設協会「令和6年度介護報酬改定」PDF・厚生労働省PDF)

リハビリテーションマネジメント加算の算定には、リハビリテーション会議の開催とリハビリテーション計画書の作成が要件です。これらの業務をこなすことが事業所収益を高め、給与原資の増加につながる構造です。

サービス提供時間・訪問エリアと移動時間が件数を左右する

訪問単価はサービス提供時間(20分・40分・60分)によって異なります。提供時間が長いほど1回あたりの算定単位は上がりますが、1日にこなせる件数は減ります。訪問エリアが広く移動時間が長い場合、件数を積みにくくなるため、訪問リハビリ年収への影響は無視できません。ICTツール・電子カルテの整備が進む事業所では記録時間の短縮により実質的な稼働効率が高まる傾向があり、二次医療圏内でのエリア設計が合理的な事業所ほど件数を確保しやすい場合があります。

役職就任も年収を押し上げる制度的なルートです。厚労省「令和7年賃金構造基本統計調査」の役職別月額賃金(男女計)は、非役職者310.5千円・係長級399.2千円・課長級529.2千円と大きく開きます。訪問看護ステーションの管理者職への就任も選択肢の一つです。

インセンティブ還元率には「論理的な上限」がある

「年収500万〜600万円可」という求人が存在しますが、実現できるケースは限定的である可能性があります。

事業所には車両維持費・燃料費・通信費・事務経費に加え、社会保険料負担(事業主負担分)が発生します。訪問1件あたりの介護報酬収入からこれらのコストを差し引いた残額が給与原資のため、インセンティブとして個人に還元できる割合には構造的な上限があります。

日本理学療法士協会の政策要望(令和7年)によると、医療・福祉産業の平均賃金は月額306.4千円(令和6年賃金構造基本統計調査、対前年+2.8%)で「全産業のうち4番目に低い水準」とされています。同要望書のグラフでは理学療法士と全産業平均の年収差が約36万円と示されています(グラフ参考値のため比較年・比較対象の詳細は要確認)。

3団体合同実態調査(2025年)では、2023〜2025年のベースアップ実施率は医療施設74.1%・介護施設60.4%。ただし、昇給額は医療施設で「5千円未満/月」35%・「5千円〜1万円未満/月」41%と小幅にとどまっています。

求人票の「500万円可」は固定残業代・担当手当・住宅手当の内訳を必ず確認する

「年収500万〜600万円可」の多くは、固定残業代(みなし残業)込みの金額や、基準訪問件数を大きく超えた場合の試算である場合があります。確認すべき項目を整理します。

  • 基本給の金額と昇給ルール
  • 担当手当・住宅手当など各種手当の有無と金額
  • 基準訪問件数の設定とインセンティブの単価
  • 固定残業代の有無と含まれる残業時間数
  • 退職金制度・オンコール対応手当の有無

神経難病・小児などの特定疾患を対象とする訪問では、障害児(者)リハビリテーション料などの加算要件が絡む場合があります。専門性が担当手当に反映される事業所では、こうした経験が訪問リハビリ年収の向上につながる可能性があります。

これからの訪問リハビリ年収:2つのシナリオ

可能性が高いシナリオ

令和6年度介護報酬改定は本体+1.59%のプラス改定でした。PT・OT・STの3団体合同調査(2025年)では月額2万円以上の賃上げを政策要望中で、医療施設のベースアップ実施率は74.1%です。経験を積み件数を安定させた職員や管理者ポジションでは、リハ職平均443.6万円(厚労省令和7年調査)を上回る訪問リハビリ年収が見込める傾向があります。退院時共同指導加算(600単位/回・令和6年新設)の活用やリハビリテーション会議の主導が事業所収益を高め、給与原資の増加につながる可能性があります。介護報酬改定は3年ごとのサイクルで続き、業界団体の賃上げ要望が反映される場合は収入底上げが期待できる可能性があります。

リスクシナリオ

報酬財源は国の予算に依存するため、インセンティブ還元率には構造的な上限があります。二次医療圏によっては訪問エリアが広く移動時間が長くなり、1日の件数を確保しにくい場合があります。固定残業代込みの求人では額面ほど手取りが伸びないリスクもあります。利用者数が減少する時期は歩合部分が下がり、訪問リハビリ年収が大きく変動する可能性があります。

訪問リハビリの給与体系が向いている人・向いていない人

  • 訪問件数を自分で管理し、成果を収入に反映したい
  • 基準訪問件数を安定してこなせる体力・自己管理力がある
  • ICTツール・電子カルテを活用して記録効率を高められる
  • 将来的に管理者・リーダー職を目指している

一方、以下のような方には向いていない場合があります。

  • 年功型で安定的に昇給したい
  • 件数プレッシャーが精神的な負担になりやすい
  • 移動が多い働き方が体力的に合わない
  • オンコール対応や緊急訪問を避けたい

よくある質問(FAQ)

Q1. 訪問リハビリの年収は500万円以上になりますか?

基準訪問件数を大きく超えたインセンティブや管理者手当の積み上げで到達する例はあります。ただし、求人票の「500万円可」は固定残業代や担当手当・住宅手当を含む額面表記の場合があります。求人の数字を鵜呑みにせず、基本給・インセンティブ単価・各種手当の内訳を個別に質問してください。

Q2. オンコール対応はありますか?年収にどう影響しますか?

訪問看護ステーション併設型かどうかで体制が大きく異なります。オンコール手当が設定されている事業所では年収の上乗せ要因になる可能性がある一方、深夜・休日の対応負担も伴います。求人票でオンコール手当の有無・対応頻度・手当額を事前に確認することをお勧めします。

Q3. 退職金制度はありますか?

医療法人・民間企業など運営母体と事業所規模によって大きく異なります。中小規模の事業所では退職金制度がない場合もあります。退職金の有無は生涯年収に直結するため、リハビリテーション会議の実施体制と合わせて面接時に必ず確認してください。

後悔しないためのアクションプラン

訪問リハビリの求人内訳を確認するセラピスト

面接・求人確認で押さえるべき数字を整理します。

  1. 年収の内訳を分解する:基本給・インセンティブ・固定残業代・担当手当・住宅手当を個別に質問する
  2. 件数と単価を数字で聞く:基準訪問件数・訪問単価・未達時の給与を確認する
  3. 総合的な労働条件で比較する:担当エリアの広さ・移動時間・退職金制度・社会保険の内容まで含めて評価する

訪問リハビリ年収の判断基準は「数字の大きさ」ではなく、その数字がどう構成されているかです。内訳を理解し、納得できたうえで次のステップに進んでください。

参考文献・引用データ

本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。

この記事の監修者
株式会社ゴルディロックス
代表取締役 / 理学療法士龍嶋 裕二(Yuji Ryushima)

理学療法士として大学病院にて超急性期から緩和ケアまで多岐にわたる臨床を経験。2013年に独立し、株式会社ゴルディロックスを設立。 現在、リハビリ特化型デイサービスや訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所等複数の事業を経営。またクリニックの運営やプロアスリートから子供の身体発育までをサポートするパーソナルトレーナーとしても活動中。医学的知見に基づいた地域密着型のヘルスケア環境づくりを牽引している。

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