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夜間訪問中、フェンタニルの残数を数え直したことはありませんか。訪問看護 医療用麻薬 管理では、病棟のダブルチェック体制や薬剤部の一括管理、医師への即時相談が成立しにくいのが実情です。
つまずきやすい場面は主に3つです。
- 麻薬取扱記録簿の残数が合わない気がする
- レスキュー薬を使ったが、判断が正しかったか自信が持てない
- アンプルを落として割った場合、どう対応すべきか分からない
こうした不安は、1人で判断しなければならないという誤解から生まれています。実際の制度設計は違います。

実は「1人で判断する」のではなく「1人で記録し、多職種で判断する」
在宅の麻薬管理は、麻薬及び向精神薬取締法に基づく手続きと、医師・麻薬小売業者免許を持つ保険薬局・訪問看護ステーションの連携で成り立っています。看護師が単独で完結させる業務ではありません。
令和6年度診療報酬改定では、医療用麻薬の注射剤を投与されている患者が月8回の定期訪問対象に追加され、ターミナル期の緊急訪問も月4回から原則月8回に見直されました(広島県薬剤師会)。薬剤師が在宅に関与しやすい方向へ進んでいます。
ただし、連携先が機能しているかはステーションと地域によって差があります。体制が整っていない事業所では、負担が個人に寄りがちです。
具体的な記録の残し方、緊急時のナロキソン判断、残液処理の連携プロトコルについて、次の章で具体的に見ていきましょう。
在宅で医療用麻薬を扱う場面は、今後さらに増える

訪問看護の利用者は、介護保険適用が約74.4万人、医療保険適用が約48.4万人です(厚生労働省「在宅(その1)」、令和5年6月審査分)。厚労省の将来推計では、2020年から2040年にかけて85歳以上の在宅医療需要は62%増加し、救急搬送も75%増加すると見込まれています。看取りや疼痛緩和の場が在宅にシフトしていく構造的な背景があります。ただし198の二次医療圏では利用者数のピークが2040年以降になると推計されており、地域差がある点も押さえておく必要があります。
訪問看護 医療用麻薬 管理の実務では、モルヒネ・オキシコドン・フェンタニルという代表的なオピオイドを、徐放性製剤・レスキュー薬・貼付剤・注射剤といった剤形の違いで使い分けます。東京都保健医療局の廃棄方法推奨例一覧では、フェンタニルクエン酸塩バッカル錠だけでも含量規格が複数あり、廃棄方法が薬剤ごとに個別に定められています。「薬剤ごとに扱いが違う」という煩雑さは、現場の実感として無視できません。
海外の研究では、オピオイドはがん患者の呼吸困難の緩和に有効であった(標準化平均差-0.43)と報告されています(Takagi et al., International Journal of Clinical Oncology, 2023)。疼痛だけでなく、症状緩和目的で使われる場面があると理解しておくと役立ちます。ノルウェーの高齢者施設の調査では、死亡当日に55%の入所者が主に皮下注射でオピオイドの処方を受けていたとの報告もあります(Wergeland Sørbye et al., Health Services Insights, 2019)。海外の施設データであり日本の在宅実態と同一視はできませんが、終末期に内服から持続皮下注へ移行する経過は国際的にも一般的である傾向がうかがえます。
麻薬及び向精神薬取締法と加算が定める「1人でやらないための仕組み」

医療用麻薬は、麻薬施用者免許を持つ医師が麻薬処方箋を発行し、麻薬小売業者免許を持つ保険薬局が交付します。訪問看護師は、患者宅にある薬剤の使用と記録をサポートする立場です。麻薬取扱記録簿・麻薬施用票・麻薬廃棄届は、いずれも免許を持つ医療機関・薬局側の責任で作成される書類であり、看護師が単独で背負うものではありません。残液処理についても、厚労省通知(平成12年医薬発第371号)に定められた事務処理手続きに沿って進めます。
令和6年度診療報酬改定では、次のような見直しがありました(広島県薬剤師会資料)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 地域支援体制加算 | 麻薬調剤実績が基本料1で20回以上、それ以外で40回以上 |
| 地域連携薬局 | 在宅薬剤管理の実績24回以上が要件 |
| 訪問薬剤管理指導 | 麻薬注射剤投与中の患者を月8回の定期訪問対象に追加 |
| ターミナル期対応 | 緊急訪問回数を月4回から原則月8回に見直し |
大分県薬剤師会の資料によると、2025年3月末時点で地域連携薬局は4,208件、専門医療機関連携薬局は208件が認定されています。連携先は整備が進んでいますが、専門医療機関連携薬局は数が限られており、地域差が大きい可能性があります。
訪問看護側にも「麻薬管理指導加算」「在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算」があります。これらは報酬そのものより、疼痛アセスメントと記録を継続的に行うことを求める仕組みと捉えると、実務との結びつきが見えてきます。
1人訪問でも判断を誤らないための実務プロトコル
一般的な流れは次の通りです。
- 訪問前に処方内容と前回残数を確認
- 疼痛アセスメントシートで痛みの強さ・レスキュー薬の使用回数と効果・眠気や便秘などの副作用を評価
- 残数照合と記録
- 逸脱があれば医師・薬局へ即時連絡
病棟のようなダブルチェックができない場面では、次のような多重化で運用するステーションが多い傾向があります。
- 患者・家族との声出し確認による同席チェック
- 写真や記録アプリでの残数の可視化
- ステーション内での訪問後の記録二重確認
- 薬局薬剤師の訪問日と情報共有
PCAポンプやシリンジポンプによる持続皮下注は高度管理医療機器に該当します。閉塞アラーム・電池切れ・刺入部トラブルの確認が欠かせません。呼吸数、意識レベル、SpO2、瞳孔に異変があり呼吸抑制が疑われる場合は、自己判断せず直ちに医師へ連絡することが原則です。
呼吸抑制・ポンプ故障・紛失——「1人のとき」に何が起きるかを想定しておく

呼吸抑制・意識障害が疑われたとき、ナロキソン投与の判断は看護師が独断で行うものではなく、医師の指示に基づきます。事前に緊急時対応の連絡先と指示内容を指示書へ明記してもらっておくことが重要です。投与量は薬剤添付文書と主治医の指示によります。
ポンプの故障・アラーム時は、次の順序で確認します。
- アラーム内容の確認
- ルート閉塞・接続部・刺入部の確認
- 電源・バッテリーの確認
- 機器メーカー・貸出元への連絡
- 医師・薬局への報告
独居・認知症患者での誤用・紛失・盗難防止には、鍵付き保管ボックスの導入、保管場所の一元化、家族・ヘルパーを含めた保管ルールの共有、使用記録のデジタル化による残数の可視化が具体策として挙げられます。
破損・紛失が起きた場合は、まず主治医と交付元の保険薬局へ速やかに連絡し、事実経過を正確に記録することが第一です。麻薬及び向精神薬取締法上の届出手続きは、免許を持つ医療機関・薬局側の手続きとして進みます。看護師個人が隠したり自己判断で処理したりしないことが、最大のリスク回避につながります。手順がすでに決まっているからこそ、1人の訪問でも対応できる仕組みになっています。
これからの在宅麻薬管理はどうなるか——2つのシナリオ
可能性が高いシナリオは、多職種連携がさらに厚くなる方向です。厚労省推計では、2020年から2040年にかけて85歳以上の在宅医療需要は62%増加するとされています(中央社会保険医療協議会「在宅(その1)」)。令和6年度改定でも、医療用麻薬の注射剤投与患者への訪問薬剤管理指導が月8回まで拡大されました(広島県薬剤師会資料)。薬剤師・医師との連携が制度面で強化され、訪問看護師が単独で抱える場面は相対的に減っていく可能性があります。
一方でリスクシナリオもあります。専門医療機関連携薬局は2025年3月末時点で208件にとどまり、地域連携薬局4,208件と比べて少数です(大分県薬剤師会資料)。麻薬対応に慣れた薬局が近隣にない地域では、連携が機能せず24時間対応の負荷がステーションや個人に集中する可能性があります。小規模ステーションでは、記録様式や保管ルールが未整備なまま個人の経験に依存するケースがあるという傾向も見られます。
向いている人・慎重に考えるべき人

向いている人の傾向
- 記録と手順を守ることに苦痛を感じない
- わからないことをすぐ電話で確認できる
- 患者・家族の生活背景を含めて考えるのが好き
- 緩和ケアや看取りに関心がある
慎重に考えるべき傾向
- 確認せず自己判断で進めがち
- 報告・連絡が後回しになりやすい
- 急変時に1人で判断する恐怖が強く、それが解消されないまま入職しようとしている
ただし「恐怖がある=向いていない」わけではありません。教育体制やダブルチェックの仕組みが整っている事業所であれば、不安が軽減される可能性があります。
訪問看護の医療用麻薬管理に関するよくある質問
Q1. 医療用麻薬を扱うと給料は上がりますか?
麻薬管理指導加算や在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算はステーションの収益に関わりますが、個人の給与に直結するかは事業所の評価制度次第です。資格手当や緩和ケア関連手当の有無を、求人時に確認することをおすすめします。
Q2. 麻薬使用中の利用者がいると夜間コールは増えますか?
レスキュー薬の使用相談やポンプアラーム、疼痛増強などで連絡が入る可能性はあると考えられます。ただし、指示書に緊急時対応が具体的に書かれているか、医師にすぐ連絡できる体制があるかが、コール負担を大きく左右します。
Q3. 1人訪問でダブルチェックができないのが不安です。どう解決されていますか?
患者・家族との声出し確認、記録の事後二重確認、薬剤師訪問との情報共有など、複数の方法を組み合わせて多重化するステーションが多い傾向があります。こうした仕組みが実際に回っているかを、入職前に確認しておくと安心です。
不安を減らすために、今日からできる確認手順

- 麻薬及び向精神薬取締法と、厚労省「麻薬の廃棄に係る事務処理について」(医薬発第371号)、自治体の廃棄方法資料に一度目を通す。
- 自事業所の麻薬取扱記録簿・残数確認の様式、破損時の連絡フローを紙で確認する。整っていなければ整備を提案する。
- 連携先の保険薬局が麻薬小売業者免許を持つか、24時間対応可能かを確認する。
- 転職・異動を検討している場合は、面接で以下を具体的に質問する。
- 医療用麻薬を使用中の利用者は何名程度いるか
- 新人が1人で訪問するまでの同行期間はどれくらいか
- 夜間、医師への連絡ルートはどうなっているか
不安の正体は、知識不足ではなく「手順が共有されていないこと」である場合が少なくありません。制度と手順を確認し、体制に納得できたときに進めば十分です。
参考文献・引用データ
- 厚生労働省「在宅(その1)」(令和5年6月審査分、中央社会保険医療協議会資料)
- 広島県薬剤師会 令和6年度診療報酬改定資料
- 大分県薬剤師会 地域連携薬局・専門医療機関連携薬局認定状況(2025年3月末時点)
- 東京都保健医療局 麻薬の廃棄方法推奨例一覧
- 厚生労働省 医薬発第371号「麻薬の廃棄に係る事務処理について」(平成12年)
- Takagi et al., “Efficacy of opioids for dyspnea in cancer patients: a systematic review and meta-analysis”, International Journal of Clinical Oncology, 2023
- Wergeland Sørbye et al., “Opioid use in the last days of life in nursing homes”, Health Services Insights, 2019

