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ALSの人工呼吸器を在宅で担当するのは怖い。その不安は自然なもの

夜間のアラーム、停電、そばにいない医師。訪問看護でALSの人工呼吸器管理を担当すると考えると、怖くなりますよね。
病院では医師や同僚がすぐ駆けつけます。在宅では最初の判断を看護師が担う場面があります。
実はデータを見ると:在宅で人工呼吸器を使う人は増え、支える仕組みは整備の途上にある
難病情報センター(令和7年12月更新)によると、令和5年度の特定医療費受給者証所持者数は9,727人です。人工呼吸器装着者数ではありません。新たな発症は人口10万人当たり年平均2.2人です。
日本医師会の答申(2026年3月)の推計では、人工呼吸管理が必要な医療的ケア児は2008年の468人から2024年の6,180人へ約13倍です。小児の推計で、ALS患者の数ではありませんが、増加傾向は読み取れます。
24時間対応体制、多職種連携、停電・災害時の個別対応計画があれば、ひとりで判断する場面は減ります。ただし、体制や準備が不十分だと、不安が現実の負担になることもあります。
制度、アラーム・停電への備え、向き不向きを解説します。見ていきましょう。
ALSの人工呼吸器管理に関わる前に、病態・患者数・在宅ニーズをデータで確認する

訪問看護でALSの人工呼吸器管理に関わる場合、まず病気の経過と数字の「読み方」を押さえます。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態・進行とADL評価、訪問看護の導入時期
ALSは運動ニューロンが障害され、四肢・嚥下・呼吸筋の機能が進行性に低下する病気です。ADL評価は、支援内容を見直す基準になります。
難病情報センター(令和7年12月更新)の記載は次のとおりです。
- 新規発症:人口10万人当たり年平均2.2人
- 令和5年度の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数:9,727人
- JaCALS(ALS全国調査)の登録症例数:2,625名(2025年8月現在)
JaCALSは研究登録者数で、全国患者数ではありません。
訪問看護は、呼吸器装着後だけでなく早期から関わる意義があると考えられます。提供は主治医の訪問看護指示書に基づきます。
NPPVからTPPVへ:呼吸管理は段階的に変わる
非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)では、マスクフィッティング、皮膚トラブル、リークを確認します。気管切開下陽圧換気療法(TPPV)では、カニューレ、吸引、回路の管理が加わります。TPPVへの移行は本人・家族の意思決定を伴います。継続的な情報提供と意思確認の支援が求められる傾向があります。
呼吸機能の評価項目は次の3つです。
| 項目 | 見ること |
|---|---|
| 肺活量(VC) | 呼吸筋力の低下の目安 |
| 努力性肺活量(FVC) | 努力時に吐ける空気量 |
| 咳嗽最大流量(PCF) | 痰を出す力の目安 |
厚生労働省「令和7年度終了の研究課題の成果の一覧」には、研究班が「ALS治療薬が4剤となった現状」を反映したとあります。ALS診療ガイドライン追補版2025は2025年10月7日に発表されました。診療の前提が更新されており、在宅スタッフも最新の指針を確認する必要があります。
在宅で人工呼吸器を使う人は増えているのか
日本医師会 小児在宅ケア検討委員会の答申(2026年3月)の推計では、人工呼吸管理が必要な医療的ケア児は2008年の468人から2024年の6,180人へ約13倍です。小児の推計値で、ALS成人の数ではありません。
ALSを含む成人の在宅人工呼吸器装着者数は、今回確認した資料に数値の明示がありません。地域の実数は、一次資料「全国都道府県別在宅人工呼吸器装着者調査 2024」(宮地隆文、難治性疾患政策研究事業)で確認できます。
補足です。令和5年(2023)の厚労省患者調査で、全入院患者に占める神経系疾患は10.5%とされます。愛知医科大学の広報誌に載った教授インタビュー内の引用値で、二次引用です。
ALSの訪問看護を「ひとりで抱えない」ための制度と研修

訪問看護でALSの人工呼吸器を担当する場合、制度の理解が不安を減らします。
医療保険・介護保険の適用関係と訪問看護指示書
ALSは厚生労働大臣が定める疾病等に該当します。要介護認定を受けていても、訪問看護は医療保険で提供されるのが原則です。詳細は最新の診療報酬告示・通知で必ず確認してください。
利用回数・訪問時間・複数ステーション利用と在宅人工呼吸器使用患者支援事業
医療保険の訪問看護には、利用回数・訪問時間・複数ステーション利用に関する算定要件があります。在宅人工呼吸器使用患者支援事業は、医療保険の範囲を超える追加訪問を補う仕組みです。具体的な回数・時間・対象要件は、都道府県の事業要綱・告示で確認します。
制度併用の実務比較:訪問看護・重度訪問介護・支援事業
| 制度 | 主に担う内容 | 自治体へ確認する事項 |
|---|---|---|
| 医療保険の訪問看護 | 医療的ケア、観察、家族支援 | 算定要件、複数ステーション利用 |
| 重度訪問介護(障害福祉) | 長時間の見守り・生活支援 | 対象要件、同一時間帯の利用可否、支給量 |
| 在宅人工呼吸器使用患者支援事業 | 追加訪問の補完 | 対象要件、支給量 |
喀痰吸引等制度では、社会福祉士及び介護福祉士法に基づき、研修を修了し認定を受けた介護職が一定の範囲で喀痰吸引を実施できます。看護師が担う範囲と介護職が担える範囲を、家族・ヘルパーと共有しておくことが、夜間の不安を減らす一因になると考えられます。
難病法に基づく特定医療費(指定難病)助成制度
指定難病の医療費の自己負担を軽減する制度です。利用者・家族から質問を受ける場面に備え、概要を知っておくと役立ちます。
24時間対応体制と緊急時の連絡・支援体制
夜間アラーム時の一般的な流れは次のとおりです。
- 家族から電話で相談を受ける
- 緊急訪問の要否を判断する
- 主治医・在宅医へ連絡する
人工呼吸器業者の24時間サポート窓口との役割分担も事前に決めます。待機回数や出動率の数値は今回の資料にありません。負担は事業所の体制により異なる傾向があります。
研修体制:特定行為研修と補助の実例
日本訪問看護財団「機能強化型1訪問看護ステーションにおける特定行為研修修了者の活動状況」(令和6年度老健事業)には、個別事業所へのヒアリング事例があります。全国平均ではありません。
- 大阪府「ハートフリーやすらぎ」:受講者6名(パッケージ研修3名、個別研修3名)。大阪府訪問看護ネットワーク事業補助金で最大51万円。研修中の給与は全額ステーションが支給
- 別のステーション(名称の記載なし):補助金は「2年にわたり120万円」。合計か年額かは原文から判別できません。
- 同ステーションのヒアリング対象者は、受講費と代替職員の給与保障を含め約200万円のコストを見積もっています。単年度交付で申請が煩雑との意見もありました。
気管カニューレ交換や人工呼吸器設定変更に関わる特定行為区分を習得すると、在宅で対応できる範囲が広がる可能性があります。一方で、時間と費用の負担があります。
確認しておくべきこと: 事業所の研修補助と、24時間の連絡ルートです。
人工呼吸器使用者の災害・停電対策:アラーム・回路外れに備える「個別対応計画」

訪問看護でALSの人工呼吸器を担当するなら、日常の確認と災害時の計画を一体で整えます。
訪問時のルーティン:設定確認・回路管理・アラーム対応
訪問ごとの確認項目です。
- 人工呼吸器の設定値(指示書との照合)
- 回路の破損・結露・接続
- 加温加湿器
- 呼吸数、SpO₂、二酸化炭素濃度(測定機器がある場合)
アラームの一般的な分類は次のとおりです。対応は機種ごとに取扱説明書の手順に従ってください。
| 分類 | 主な原因例 |
|---|---|
| 高圧系 | 痰の貯留、回路屈曲 |
| 低圧系 | 回路外れ、リーク、カフ圧低下 |
| 電源系 | 停電、バッテリー低下 |
気管カニューレ管理では、カフ圧、固定、計画外抜去への備えを確認します。気管切開部は、発赤・肉芽・分泌物を観察します。喀痰吸引は実施範囲を確認します。排痰補助装置(MI-E)は、咳の力が弱い人の排痰を補助する機器です。
確認しておくべきこと: 利用者ごとの手順書とアラーム対応フローの有無です。
停電・災害時の個別対応計画に入れるべき項目
- 機器の消費電力と、内部・外部バッテリーの実測稼働時間(家族と一緒に確認)
- 外部電源の適合性(発電機・ポータブル電源が使えるか、メーカーに確認)
- 回路外れ・機器故障時の代替換気手順(蘇生バッグの用手換気を家族も練習)
- 吸引器の電源確保
- 緊急連絡先リストの更新
- 保健所・自治体との情報共有
消費電力やバッテリー稼働時間は、機器の取扱説明書やメーカー資料で確認します。
日本医師会の答申(2026年3月)には、熊本県八代市の例があります。2024年11月に八代市医師会の協力で人工呼吸器装着者の防災さんぽを実施しました。2025年4月には非常用電源補助を事業化しています。一自治体の例で、全国一律ではありません。
2024年1月の能登半島地震では、在宅医療機器利用者の備えが改めて問われました。参考資料に、難病患者の地域支援体制に関する研究班「難病患者の災害対策ガイドライン」があります。参考文献の板垣ゆみら「在宅人工呼吸器使用患者の災害時の備えの現状―訪問看護ステーションへの質問紙調査より―」(2022)も確認できます。
確認しておくべきこと: 実測稼働時間と代替換気手順が、記録として残っているかです。
未経験者が担当するまでの流れと、よくある失敗パターン
一般的な流れは、同行訪問で手順を確認し、手順書とアラーム対応フローを確認し、単独訪問へ段階的に移行する形です。期間や回数は事業所により異なります。
よくある失敗パターンです。
- バッテリー残量の過信
- 家族が回路外れ時の手順を練習していない
- 緊急連絡先が古いまま
- 対応知識が特定のスタッフに偏り、その人が不在の夜に判断が遅れる
同行訪問の仕組みや手順書がない事業所では、未経験者が担当すると負担が大きくなる傾向があります。
確認しておくべきこと: 応募先や職場に、同行訪問の期間とバックアップ体制があるかです。
ALSの人工呼吸器管理と訪問看護のこれから:2つのシナリオ
可能性が高いシナリオ
- 在宅利用者は一定数以上続く可能性があります。 日本医師会答申(2026年3月)の推計では、人工呼吸管理が必要な医療的ケア児は2008年の468人から2024年の6,180人へ約13倍です。小児のデータで、成人ALSの数ではありません。
- 自治体の停電対策が広がる可能性があります。 熊本県八代市は2025年4月に、人工呼吸器装着児者の非常用電源補助を事業化しました。
- 継続学習が求められる傾向があります。 ALS治療薬は4剤となり、診療ガイドライン追補版2025が2025年10月7日に発表されました。
- 法改正の議論も進んでいます。 同答申は、医療的ケアに関する法改正について「2026年6月の通常国会で成立、2026年9月施行」を目指して議論中と記載しています。答申時点の見込みで、確定ではありません。最新の状況は厚生労働省等の公表情報で確認してください。
リスクシナリオ
- 地域差が残る可能性があります。 熊本県の医療的ケア児支援センターが三者協議のために訪問できたのは、45市町村のうち20市町です(同答申)。
- 24時間対応の負担が、少人数のステーションに集中する懸念があります。
- 研修補助は単年度交付で、申請が煩雑という声があります。 日本訪問看護財団の令和6年度事例で、個別事業所の意見です。
これらから、事業所ごとに体制の差が生まれやすくなる可能性があります。
ALSの人工呼吸器を担当する訪問看護に向いている人・向いていない人
向いている人のチェックリスト
- アラームの原因を、手順に沿って一つずつ切り分けられる
- 家族への手技指導(用手換気・吸引)を根気強く続けられる
- 嚥下機能評価と誤嚥予防を学ぶ意欲がある
- 胃瘻・経管栄養の管理と栄養評価を学ぶ意欲がある
- 関節可動域訓練、拘縮予防、褥瘡予防といった長期的なケアに価値を感じる
- 補助代替コミュニケーション(AAC)、視線入力装置・スイッチの適合評価、ナースコール接続など、意思伝達支援に関心がある
- 医師・介護職・保健所・機器業者との多職種連携で、報告・相談を早めにできる
向いていない状況(環境条件を含む)
本人の資質ではなく、環境が合わないケースがあります。
- 同行訪問の仕組みや利用者別の手順書がないのに、単独担当を求められる
- 24時間対応のバックアップ体制(2番手の連絡先など)がない
- 個別の災害・停電対応計画がない
- 「怖さ」を相談できる上司・同僚がいない
よくある質問(FAQ)
Q1. 訪問看護でALSの人工呼吸器の利用者を担当すると、給与は上がりますか?
A. 今回確認した公的資料に給与データはなく、公的統計に明示なしです。面接では次を確認してください。
- 手当の有無と算定方法
- 特定行為研修の費用負担と、研修中の給与保障の有無
参考例として、大阪の「ハートフリーやすらぎ」は研修中の給与を全額支給し、大阪府の補助は上限51万円です(日本訪問看護財団 令和6年度、個別事例)。キャリア投資の判断材料になります。
Q2. 夜間のオンコールでアラームの電話が来たら、ひとりで判断するのですか?
A. 一般的な流れは次のとおりです。
- 電話で状況を聴取する
- 家族に手順書に沿った確認を促す
- 緊急訪問、主治医連絡、機器業者連絡を判断する
待機回数や出動率の公的データは、今回の資料にありません。応募前に、事業所の実績とバックアップ体制を確認してください。
Q3. 多職種や家族との人間関係が難しいと聞きますが、大丈夫でしょうか?
A. 摩擦の原因は、重度訪問介護のヘルパー・家族・医師との役割分担のあいまいさにある場合があります。対策は次の2つです。
- サービス担当者会議で、喀痰吸引の実施範囲と緊急時の連絡順を文書化する
- 多職種連携の窓口を明確にする
アクションプラン:不安を「確認事項」に変える3ステップ

ステップ1:確認する質問リストを作る
- 人工呼吸器利用者の受け入れ実績と機種
- 同行訪問の進め方
- 24時間対応のバックアップ体制
- 利用者ごとの災害・停電対応計画の有無
- 特定行為研修などの研修支援
ステップ2:一次資料で学ぶ
- ALS診療ガイドライン追補版2025
- 難病患者の災害対策ガイドライン
- 居住地の都道府県の在宅人工呼吸器使用患者支援事業要綱
- 担当予定機種の取扱説明書
ステップ3:見学・同行訪問を依頼する
回路交換、用手換気、アラーム対応の流れを実際に見てから判断します。
まとめ
怖さは、準備と体制で小さくできる部分があります。一方で、体制が整っていない環境では、無理をしないことも大切な選択です。
訪問看護でALSの人工呼吸器管理に関わるかどうかは、条件を確認し、納得したうえで決めてください。
参考文献・引用データ
本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。
- 【日本医師会】|【2024・2025年度 小児在宅ケア検討委員会 答申】|【会議資料】
- 【国立病院機構東埼玉病院】|【病院年報】|【事業報告書】
- 【厚生労働省】|【令和7年度終了の研究課題の成果の一覧】|【事業報告書】
- 【日本医師会】|【令和6年度 報告】|【事業報告書】
- 【難病情報センター】|【筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)】|【制度解説】
- 【愛知医科大学】|【ヘルスケア共創センターの設置】|【事業報告書】
- 【日本訪問看護財団】|【機能強化型1訪問看護ステーションにおける特定行為研修修了者の活動状況】|【業界レポート】
- 【大分県立看護科学大学】|【年報 令和6年度(2024年度)】|【事業報告書】
- 【富山県看護協会】|【公益社団法人 富山県看護協会】|【業界レポート】
- 【日本医師会総合政策研究機構】|【第3回 診療所の在宅医療機能に関する調査(2025年)No.497】|【業界レポート】
- 【日本総合研究所】|【多職種連携による災害時の高齢者支援 報告書】|【公的統計】
- 【地域医療振興協会】|【月刊地域医学 Vol.39 No.4(2025年)特集 災害医療アップデート −支援団体の多様性を学ぼう−】|【学術誌】
- 【難病患者の地域支援体制に関する研究班】|【難病患者の災害対策ガイドライン】|【制度解説】


