訪問看護のインセンティブはいくら?仕組みと相場

看護師
訪問看護師が利用者宅の玄関先で笑顔で挨拶している場面

求人票に「インセンティブあり」と書かれていても、固定給とどちらが得なのか判断できない——そんな悩みを抱えていませんか。

訪問看護のインセンティブは事業所ごとに設計が大きく異なり、額面だけでは実態が見えにくい報酬です。

インセンティブで本当に手取りは増えるのか

実はデータを見ると、訪問看護師の給与には「幅」がある

日本看護協会『2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査報告書』(2025年1月支給分)によると、訪問看護ステーション勤務者(n=637)の平均税込給与総額は月383,262円、スタッフ(非管理職)の平均年収は5,087,248円です。

ただし、これは基本給・各種手当・インセンティブをすべて含んだ「結果としての総額」。インセンティブ単体の相場を示す公的統計は存在しません。

訪問件数を積み上げれば上乗せが見込める仕組みがある一方、移動時間が長い地域や稼働率が上がらない時期には、思ったほど収入が伸びないリスクも現実にあります。「インセンティブあり=高収入」とは一概に言えないのです。

仕組みと相場の実態を、具体的に見ていきましょう。

訪問看護師の基本給・総額とインセンティブの位置づけ

訪問看護ステーションの管理者がスタッフに給与構造を説明している場面

インセンティブ単体の公的相場は存在しません。給与総額の構造から実態を読み解きます。

日本看護協会『2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査報告書』(2025年1月支給分、n=637)によると、訪問看護STの平均基本給は月280,046円平均税込給与総額は383,262円です。

項目 金額
平均基本給月額 280,046円
平均税込給与総額 383,262円
差額(調整手当・等級地手当・インセンティブ等) 約103,000円

差額の約10万円に、調整手当・等級地手当・インセンティブが含まれます。

事業所規模別でも開きがあります(同調査・常勤スタッフ・税込総額)。

規模(常勤換算看護職員数) 最高額スタッフ平均 最低額スタッフ平均
5人未満 328,794円 289,619円
5〜10人未満 357,682円 300,440円

年齢別でも差があります(35〜39歳:323,324円、55〜59歳:373,823円。各n=30〜42で参考値)。スタッフ(非管理職)年収は5,087,248円(n=322)ですが、これも月次データとはサンプルが異なります。訪問看護のインセンティブ相場を平均値1つで測るのは難しく、幅で捉えることが重要です。

固定給制か歩合制かという制度設計の違い、常勤換算での勤務形態が、受け取れる手当の種類と金額に直接影響します。

インセンティブの原資:介護報酬・加算と訪問件数・稼働率の関係

訪問看護師が在宅の高齢者利用者のバイタルを測定している場面

訪問看護のインセンティブは「介護報酬・加算収入の一部還元」という構造です。

訪問看護ST(介護保険)の報酬単位は訪問時間で決まります(厚生労働省会議資料)。

訪問時間 単位数
20分未満 313単位
30分以上1時間未満 821単位
1時間以上1時間30分未満 1,125単位

介護報酬は1単位あたりの単価が地域ごとに設定されており(おおむね10〜11円台)、訪問件数・訪問時間・稼働率の積み上げが直接報酬額に反映されます。これらをインセンティブ単価の算定基礎に設定する事業所が多い傾向があります。長時間訪問看護加算など報酬単価の高い訪問区分をインセンティブ加算対象にする設計も見られます。

主要加算の単位数は以下の通りです(カイポケ『2024年度改定対応サービスコード表』)。

加算名 単位数
緊急時訪問看護加算Ⅰ1 600単位/月
訪問看護特別管理加算Ⅰ 500単位/月
ターミナルケア加算 2,500単位/件

日本看護協会『2024年度 訪問看護実態調査報告書』によると、緊急時訪問看護加算の届出率は91.7%です。ターミナルケア加算の算定率は25.2%(算定事業所の平均1.8人/月)にとどまり、算定事業所の60.1%が月1件のみです。ターミナルケア加算は1件2,500単位と高単価ですが、算定事業所が4分の1程度であることからも、インセンティブ収入は加算算定状況によって差が出る可能性があります。

オンコール手当・緊急訪問手当・待機手当は、緊急時訪問看護加算の収益が原資になるケースが多い傾向があります。令和6年度診療報酬改定で新設された訪問看護ベースアップ評価料Ⅰ(780円/月・利用者1人)もスタッフへのベースアップ財源として機能します。介護報酬改定のたびに加算体系は変化するため、インセンティブ設計も連動して見直される可能性があります。

損益分岐点(BEP)から見るインセンティブ支給率のロジック

訪問看護師がパソコンで訪問件数とインセンティブの損益データを確認している場面

インセンティブが支給できるかどうかは、事業所の損益構造に依存します。

一般的な傾向として、1件あたりの報酬がスタッフ人件費・移動コスト・間接費の損益分岐点を超えた部分が原資になります。訪問件数が少ない時期や規模が小さい事業所では、インセンティブが発生しにくい可能性があります。

歩合制の典型パターン:

  • 月間訪問件数が「基準件数」(損益分岐となる件数)を超えた分にインセンティブ単価を乗算
  • 24時間対応体制加算・特別管理加算などの加算収益がスタッフ評価に上乗せされる設計も見られる

確認すべきポイントは3つです。

① 移動時間・記録時間の比率
移動時間と記録時間は報酬を生みません。これらが長い事業所では稼働率が上がりにくく、インセンティブの支給前提が崩れるリスクがあります。

② オンコール手当・深夜割増賃金の水準
よくある事例として、訪問件数を積み上げてもオンコール手当・待機手当が低水準な場合、総額が伸びにくい傾向があります。深夜の緊急訪問は深夜割増賃金の対象になり得ます。通常の訪問看護師は管理監督者に該当しないケースが多く、労働基準法第41条による時間外・休日割増の適用除外は原則として受けられません。

③ 管理者手当の有無
管理者・主任クラスには管理者手当が付く事業所があります。その分、歩合制インセンティブの比率が低く設計されやすい傾向があります。なお、労働基準法第41条の管理監督者該当性は、肩書きではなく権限・待遇・実態で判断されます。

訪問看護 インセンティブ 相場を比較する際は、インセンティブ単価だけでなく、基準件数・オンコール手当・ターミナルケア加算の算定実績・管理者手当の有無をあわせて確認することが、実態に近い評価につながる可能性があります。

参考文献・引用データ

本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。

この記事の監修者
株式会社ゴルディロックス
代表取締役 / 理学療法士龍嶋 裕二(Yuji Ryushima)

理学療法士として大学病院にて超急性期から緩和ケアまで多岐にわたる臨床を経験。2013年に独立し、株式会社ゴルディロックスを設立。 現在、リハビリ特化型デイサービスや訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所等複数の事業を経営。またクリニックの運営やプロアスリートから子供の身体発育までをサポートするパーソナルトレーナーとしても活動中。医学的知見に基づいた地域密着型のヘルスケア環境づくりを牽引している。

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