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訪問看護に転職したものの、「想像より精神的にきつい」「自分だけが追い詰められているのか」と感じていませんか。辞めるべきか迷いながら、毎日の訪問をこなしている方も多いはずです。
このストレスは自分だけ?それとも構造的な問題?
実はデータが示す「ストレスは個人の弱さではない」という事実
厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書」によると、令和5年に「仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み又はストレスがある」と回答した労働者は82.7%にのぼります。訪問看護のストレスは、あなたの弱さではありません。
一方で、訪問看護には一人で訪問先へ向かう孤独やオンコール対応など、この働き方に特有の負荷があります。職場の体制やサポートの有無によって、しんどさの度合いは大きく変わります。
この記事では、訪問看護のストレスの原因を構造的に整理し、辞める前に試せる対処法を客観的に把握できるよう解説します。具体的に見ていきましょう。
訪問看護のストレス原因を統計から分解する

精神的疾患・能力不安・人間関係が離職の中心
日本看護協会「2024年 病院看護実態調査 報告書」(看護管理者回答、n=1,021)によると、新卒の退職理由は以下の通りです。
| 退職理由 | 割合 |
|---|---|
| 健康上の理由(精神的疾患) | 52.5% |
| 看護職員としての適性への不安 | 47.4% |
| 看護実践能力への不安 | 41.6% |
| 上司・同僚との人間関係 | 29.8% |
同調査での2023年度採用の新卒離職率は8.3%でした。精神的負荷・能力不安・人間関係の3要因が離職の主因になる傾向があります。
訪問看護特有の構造:少人数×高訪問件数×単独訪問
全国訪問看護事業協会「訪問看護の持続可能なサービス提供のあり方と役割に関する調査研究事業 報告書」(2024年7月時点)では、1事業所あたりの従業員実人数は平均12.7人、看護職は平均6.7人です。月間延べ訪問回数は692.9回にのぼります。少人数で月700回近い訪問をこなす構造が、訪問看護のストレスの土台にあります。
病院とは異なり、訪問先での判断を一人で下す場面が多い点も特徴です。
オンコールと交感神経優位が引き起こす睡眠障害
オンコール待機中は「いつ呼ばれるかわからない」という緊張が持続します。この状態では交感神経が優位になりやすく、待機中でも眠りが浅くなる傾向があります。慢性的な睡眠不足がさらにストレスを増幅させる可能性があります。
内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)」によると、孤独感が「しばしばある・常にある」割合は20〜29歳が7.4%と全年齢で最も高い数値でした。単独訪問が多い環境では、若手ほど孤立感を抱えやすい傾向があります。心理的安全性(相談しやすい職場風土)の有無が、ストレスの深刻度に影響する要因の一つになり得ます。
オンコール待機は「労働時間」か?手当と判断基準を整理する
指揮命令下にあるかが判断の軸
労働基準法上の労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれた時間」です。オンコール待機が労働時間とみなされるかは、以下の要素で評価が分かれる場合があります。
- 待機中の行動制限(外出・飲酒の禁止等)の程度
- 呼び出し頻度と応答までの所要時間
- 待機場所の指定の有無
行動の自由度が実質的に制限されている場合は「労働時間に該当する」と判断される可能性があります。一方、自由度が高く呼び出しが少ない場合は異なる判断になることもあります。
オンコール待機手当の有無・金額は事業所差が大きく、公的統計に全国平均値の明示はありません。就業規則・雇用契約の内容確認が基本です。
病院勤務との対比として、病院看護師には1か月72時間という夜勤時間の上限目安が示されていますが、訪問看護のオンコール待機には同様の基準がなく、変形労働時間制の活用状況も事業所によって異なります。
ストレスチェック制度と小規模事業所の実態
労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度は、労働者50人以上の事業場では実施義務、50人未満は努力義務にとどまります。訪問看護ステーションは小規模が多く、制度の対象外になるケースがある点は把握しておく必要があります。
厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書」によると、50人未満の小規模事業場のストレスチェック実施割合は令和5年時点で34.6%(大綱目標50%)にとどまっています。事業所が未実施の場合は、厚生労働省「こころの耳」等のセルフチェックツールが選択肢の一つになります。
訪問看護のストレスを軽減する体制とエビデンスに基づく対処法

ICTツールの活用で孤独感を和らげる
全国訪問看護事業協会の同報告書によると、看護記録の電子化を実施している事業所は83.4%です。リアルタイムの情報共有が可能な環境では、訪問中に判断に迷ったときのサポートが受けやすくなる傾向があります。
精神科訪問看護の負荷とカスタマーハラスメント対策
厚生労働省「利用者の状態変化に適切に対応する精神科訪問看護の提供体制整備に関する研究 総括研究報告書」(計n=224)によると、精神科訪問看護の利用者は統合失調症が48.2%で最多、精神症状は抑うつ状態41.5%、暴言10.7%、単身世帯58.0%という状況です。
暴言リスクのある利用者への単独訪問は、精神的負荷が特に高くなる場合があります。厚生労働省策定のカスタマーハラスメント対策ガイドラインに基づく対応方針の整備や、同行訪問(バックアップ体制)の導入が、リスク軽減策として有力な選択肢です。精神科訪問では服薬アドヒアランスの支援も担うため、利用者の状態変化を継続的に判断する負担も伴います。
介入エビデンスと具体的な対処法
海外の系統的レビューでは、医療・地域サービス従事者のバーンアウト・二次的外傷性ストレスへの介入研究13件中7件で有意な改善が報告されており、対象の大多数(10件)が看護師でした(Cocker & Joss, International Journal of Environmental Research and Public Health, 2016)。スペインの精神科専門看護師750人を対象とした研究ではMaslach Burnout Inventory(MBI)による定量測定が行われており、心理的負荷を数値で把握する手法があることが示されています(Román-Sánchez et al., 同誌, 2022)。ただし、日本の訪問看護への直接適用には文脈差があります。
職場レベルで効果的とされる対処法を以下に整理します。
| 手法 | 概要 |
|---|---|
| 事例検討会(ケースカンファレンス) | 難しいケースを複数人で共有・検討 |
| スーパービジョン | 上位者・外部専門家による実践の振り返り |
| ピア・サポート | 同僚間の相互支援体制 |
| ノーブレーム文化 | ミスを責めず改善につなげる職場風土 |
| 認知行動療法(CBT) | 思考パターンを見直すストレス対処スキル |
これらの取り組みが整備されている事業所では、訪問看護のストレスが軽減される傾向があります。転職先を検討する際の選定基準としても参考にできる可能性があります。
辞める前に:2つのシナリオで自分の状況を見極める
改善が見込めるシナリオ:同行訪問・ケースカンファレンス・ICT情報共有が整備され、ストレスチェックの集団分析結果を訪問件数調整やタスクシフトに反映できる職場では、訪問看護のストレスが軽減される可能性があります。
リスクが残るシナリオ:相談相手がいない極少人数体制、オンコールの手当・呼出頻度の条件が不透明、ハラスメントへの組織対応がない場合は、個人の努力だけでは限界がある場合があります。
厚生労働省「看護職員就業状況等実態調査結果」では、相談したい相手として「職場の上司」が30.4%に対し、「外部の相談機関」は3.4%にとどまります。相談先が職場内に偏りやすい構造は、自覚しておく必要があります。なお、訪問看護事業所の大規模化・ICT化は今後も進む可能性があり、体制の整った職場の選択肢が広がる傾向があります。
向いている人・向いていない人チェックリスト
訪問看護に向いている人
- 自律的な判断・行動が得意
- 利用者と長期的に関わりたい
- 小規模チームでも自ら相談・連携できる
慎重に体制を選ぶべき人
- 一人での判断に強い不安がある
- オンコールによる睡眠への影響が大きい
- 手厚い教育・バックアップが必要
「向いていない=ダメ」ではありません。自分の特性に合う体制の事業所を選ぶことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1 訪問看護のストレスに見合う給与はもらえる?
日本看護協会「2024年病院看護実態調査」では、勤続10年・31〜32歳・非管理職の平均税込給与総額は334,325円(2024年度実績)です。訪問看護は事業所差が大きく、この数値が直接当てはまるわけではありません。確認すべき項目は、基本給に加え、オンコール待機手当の有無・金額、処遇改善加算の支給方法、訪問件数に連動した報酬体系の有無です。面接時に就業規則とともに確認することを推奨します。
Q2 オンコールのストレスがどうしても限界な場合は?
①待機手当の有無・金額、②月間呼出頻度の目安、③翌日勤務の調整方法(変形労働時間制の活用)の3点を就業規則で確認してください。変形労働時間制の適用下では、週平均40時間以内に収まっていても特定の時期に負荷が集中する場合があります。条件が不透明なまま継続することはリスクが高く、改善交渉が難しい場合はオンコールなしの事業所への異動も選択肢の一つです。
Q3 少人数ゆえの人間関係のストレスへの対処は?
厚生労働省調査では「現在の施設で働き続けたい理由」として「人間関係がよいから」が39.2%でした。一方、少人数体制では合わない場合の逃げ場が少ない傾向があります。入職前の見学・スタッフとの面談で雰囲気を直接確認することが有効です。
辞める前にやる3ステップのアクションプラン

Step1:ストレス要因を「個人で対処可能」と「組織体制の問題」に切り分ける。MBIなどの尺度も参考に、燃え尽きの状態を客観視することが出発点です。
Step2:上司・管理者に、ストレスチェック結果の共有・訪問件数の調整・同行訪問の実施を相談する。
Step3:改善余地がなければ、オンコール体制・人員規模・教育体制・ハラスメント対応を明確にした上で転職を検討する。
焦って結論を出す必要はありません。心身の不調が続く場合は、産業医や外部の相談機関への相談を優先してください。精神的なケアが継続的に必要な場合は、自立支援医療(精神通院医療)など公的制度の利用も選択肢の一つです。
精神科訪問看護に携わる方は、ICD-10(精神及び行動の障害)による診断分類や、精神障害者保健福祉手帳の申請要件といった制度知識を把握しておくことで、利用者支援がよりスムーズになる場合があります。
参考文献・引用データ
本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。
- 【日本看護協会】2024年 病院看護実態調査 報告書
- 【厚生労働省】新たな看護職員の働き方等に対応した看護職員需給推計への影響に関する研究 報告書
- 【日本看護協会】2025年 看護職員実態調査(暫定値)および重点要望事項
- 【日本看護協会】令和6年度 事業報告
- 【厚生労働省】看護職員就業状況等実態調査結果
- 【日本訪問看護財団】訪問看護の現状とこれから 2025年版
- 【厚生労働省】利用者の状態変化に適切に対応する精神科訪問看護の提供体制整備に関する研究 総括研究報告書
- 【全国訪問看護事業協会】訪問看護の持続可能なサービス提供のあり方と役割に関する調査研究事業 報告書
- 【厚生労働省】地域における支援ニーズの高い者に対する精神科訪問看護の実態等に関する調査研究
- 【内閣府】孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)調査結果のポイント
- 【厚生労働省】介護保険最新情報 Vol.1454(令和7年12月25日)
- 【総務省】令和7年度 地方公務員のメンタルヘルス対策の推進に関する研究会 資料
- 【地方公務員安全衛生推進協会】令和6年度 地方公務員のメンタルヘルス対策の推進に関する研究会 報告書
- 【厚生労働省】令和6年版 厚生労働白書(こころの健康を取り巻く環境とその現状)
- 【厚生労働省】令和6年版 過労死等防止対策白書(概要版)
- 【論文】Cocker Fiona, Joss Nerida (2016) Compassion Fatigue among Healthcare, Emergency and Community Service Workers: A Systematic Review. PMID:27338436
- 【論文】Bateman R. M. et al. (2016) 36th International Symposium on Intensive Care and Emergency Medicine. PMID:27885969
- 【論文】Román-Sánchez Daniel et al. (2022) Empathy, Burnout, and Attitudes towards Mental Illness among Spanish Mental Health Nurses. PMID:35055513

