目次
「自己導尿の指導、正直に言うと自信がない」という不安

病院では、自己導尿の指導は医師や泌尿器科病棟のスタッフに任せきりだったという方も多いはずです。
しかし訪問看護では違います。1人で訪問し、その場で判断し、患者・家族に教える必要があります。
「どこまで指導すればいいのか」「手順を誤って尿路感染や尿道損傷につながったらどうしよう」。そんな恐怖を抱えながら訪問しているケースは少なくありません。清潔間欠導尿(CIC)は手技がシンプルに見えて、実は個別性の高いケアです。
実は制度上、明確に評価されている処置
不安を抱えて当然です。在宅自己導尿指導管理料(C106)は1,400点と、診療報酬上はっきり評価されています(2024年度診療報酬点数)。
ただし、この点数がそのままあなたの給与に反映されるわけではありません。算定するのは医療機関であり、訪問看護ステーションの収益や個人評価につながる経路は別に存在します。
対応力を高めれば市場価値は上がります。ただし、それは条件付きです。詳しく見ていきましょう。
訪問看護の自己導尿支援はどれくらい遭遇する処置なのか
訪問看護における自己導尿支援は、決して珍しい処置ではありません。まず用語を整理します。間欠的自己導尿(CIC=清潔間欠導尿)とは、患者本人がカテーテルを尿道から挿入し、一定時間ごとに排尿を行う手技です。カテーテルを留置し続ける方式とは異なり、感染リスクを抑えながら自身で排尿管理を行える点が特徴です。
在宅自己導尿指導管理料の対象疾患は、診療報酬上明確に定義されています(2024年度診療報酬点数)。
- 神経因性膀胱
- 下部尿路通過障害(前立腺肥大症、前立腺癌、膀胱頸部硬化症、尿道狭窄等)
- 腸管利用尿リザーバー造設術後
つまり脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄疾患、前立腺疾患術後などの療養者に、一定の割合で自己導尿が必要な方が存在する傾向があります。
全国でどれだけの訪問看護師がこの処置に遭遇しているか、公的統計に明示的な数値はありません。「目安として」「傾向として」の域を出ませんが、在宅療養の現場では決して稀な処置ではないと考えられます。
海外の研究では、CIC実施者15名(男性8名・女性7名、年齢33〜81歳、中央値65歳)への質的インタビュー調査が行われ、高齢者から中年層まで幅広い年齢層が導入している手技であることが報告されています(Logan Karen, Journal of advanced nursing, 2008)。ただしこの調査は対象者数が少ない質的研究であり、過度な一般化は避けるべきです。
この研究からも見えてくるのは、患者が「自分の体に管を入れる」ことへの心理的抵抗を抱えているという事実です。訪問看護師の役割は、手技指導だけでなく、この心理的抵抗を受け止め、受容を支える支援でもあります。
1,400点は誰の収入になるのか

訪問看護の自己導尿支援に関わる評価として象徴的なのが、在宅自己導尿指導管理料(C106)1,400点です。ただし、これは「在宅自己導尿を行う入院外患者」に対して、主治医のいる医療機関が算定する管理料です(2024年度診療報酬点数)。訪問看護ステーションが直接算定する点数ではありません。
関連する点数も整理します。
| 項目 | 点数 | 備考 |
|---|---|---|
| 残尿測定検査(超音波) | 55点 | 月2回まで |
| 残尿測定検査(導尿) | 45点 | 月2回まで |
| 排尿自立支援加算(入院) | 200点 | 週1回、12週上限 |
| 外来排尿自立指導料 | 200点 | C106算定中は併算定不可 |
さらに、在宅自己導尿指導管理料を算定中は、尿道拡張を要する導尿、膀胱洗浄、後部尿道洗浄、留置カテーテル設置の費用は別途算定できません。単純な足し算で報酬を捉えるのは誤解のもとです。
では訪問看護師の評価はどこに現れるのでしょうか。
- 訪問看護指示書に基づく医療保険での訪問となるケースが多く、医療保険と介護保険の併用・使い分けの理解が求められます。
- 医療依存度の高い利用者に対応できる人材は、ステーションの稼働安定に直結する傾向があります。
- 結果として「対応可能な処置の幅」が、求人や面接で評価される要素になりやすいといえます。
ただし、処置対応力が個人の基本給に自動的に反映される仕組みを持つステーションばかりではありません。資格手当や特殊処置手当の有無は、入職前に確認すべき項目です。
患者側の経済負担にも目を向ける必要があります。カテーテルや消毒用品は、身体障害者福祉法上の内部障害(ぼうこう機能障害)の認定を受けることで、日常生活用具給付事業や自立支援給付の対象になる場合があります。看護師がこうした制度を案内できるかどうかは、信頼関係に大きく影響する実利的なポイントです。
カテーテル選定と排尿日誌 ― 病院との違いはここにある

手指巧緻性・視力・認知機能がカテーテル選定を左右する
病院では医師の処方どおりに使用するだけの場面が多いですが、在宅では状況が異なります。訪問看護師は、利用者本人の手指巧緻性、視力、認知機能、生活環境(トイレの広さ、車椅子使用の有無、介助者の有無)を評価した上で、カテーテルの種類を主治医に提案する立場になります。
- 親水性カテーテル(潤滑剤付着済み・ディスポーザブル):手が震える高齢者や視力低下がある方に選ばれやすい
- 再利用型カテーテル(滅菌精製水で保管、潤滑剤にキシロカインゼリー等を使用):手技が安定している方に適する場合がある
片麻痺がある方では利き手や姿勢保持の評価も欠かせません。
排尿日誌と残尿量測定で導尿間隔を組み立てる
排尿日誌(時刻、自排尿量、導尿量、飲水量)の定量データは、膀胱容量を過伸展させない導尿間隔を検討する材料になります。膀胱の過伸展は血流低下を招き、尿路感染症(UTI)のリスクを高め、長期的には逆流性腎症や腎機能障害につながる可能性があるとされています。残尿量測定は診療報酬上も、超音波によるもの55点、導尿によるもの45点として評価されている検査です。
無症候性細菌尿とUTIの見分け方
CIC実施者では尿混濁や細菌尿がしばしば見られますが、発熱、悪寒、腰背部痛、尿性状の変化、活動性低下といった臨床症状を伴わない場合は、無症候性細菌尿として経過観察となることがあります。一方、これらの症状を伴う場合は主治医への速やかな報告が必要です。
在宅でのフィジカルアセスメントとしては、腹部触診、膀胱充満の確認、尿道口の状態、結石や血尿の兆候、尿道狭窄による挿入抵抗の変化などを確認する視点が求められます。ただし、最終的な治療判断は、あくまで主治医への報告と指示に基づくものです。
自己導尿支援ができる訪問看護師の今後 ─ 2つのシナリオ

可能性が高いシナリオ
在宅療養者は今後も増加傾向にあり、医療依存度の高い利用者に対応できる看護師の需要は続くと考えられます。厚生労働省資料(第7回 新たな地域医療構想等に関する検討会、令和4年介護サービス施設・事業所調査)では、介護職員が2022年度実績約215万人から2026年度に約240万人、2040年度に約272万人必要と推計されています。これは介護職員の推計であり看護師の統計ではありませんが、在宅ケア全体の人材需要が拡大する方向性を示す傍証といえます。訪問看護 自己導尿 支援のような専門処置に対応できる人材の市場価値は、緩やかに高まる可能性があります。
リスクシナリオ
一方で、処置対応力を評価する仕組みがないステーションでは、難度の高い処置を担当しても給与が変わらず、負担だけ増える構造になりかねません。利用者・家族への指導は時間がかかり、心理的抵抗が強い場合は導入が長期化し、訪問時間内に収まらないこともあります。医療保険と介護保険の併用ルールを理解していないと、事務・請求面での負担も加わります。
向いている人・向いていない人
向いている人
- 手技を段階的に分解して教えるのが苦にならない
- 排尿日誌のような定量データを読むのが好き
- 身体障害者福祉法(内部障害)の認定や日常生活用具給付事業、自立支援給付の案内まで踏み込める
- 主治医への報告・相談を面倒がらない
向いていない人
- 手技を「自分がやったほうが早い」と感じてしまう
- 羞恥心を伴う関わりに強い抵抗がある
- 訪問看護指示書の内容を確認せず自己判断で動きがち
- 急変時(尿閉・発熱)の判断を1人で背負うことへの不安が強い
向いていないタイプ=適性がないという意味ではありません。教育体制のある職場を選べるかどうかが分かれ目です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 対応できると給与は上がりますか?
在宅自己導尿指導管理料1,400点は医療機関が算定する管理料であり、個人の給与に直結する制度ではありません。上がるかどうかは所属先の手当設計次第です。面接では「特殊処置手当の有無」「医療保険利用者の比率」を確認しましょう。
Q2. 1人訪問で判断に迷ったらどうすればいいですか?
基準は訪問看護指示書と主治医の指示範囲です。発熱、挿入抵抗の変化、血尿、尿閉といった所見は報告対象になります。24時間相談できる体制があるかが、職場選びの分岐点です。
Q3. 未経験でも採用されますか?
清潔間欠導尿(CIC)は手順が標準化されており、指導体制のあるステーションであれば未経験からでも習得可能とされています。ただし、独学で現場に出るのは避け、同行訪問の回数と教育担当の有無を必ず確認してください。
次にやるべき3ステップ

- 在宅自己導尿指導管理料の算定要件と対象疾患(神経因性膀胱・下部尿路通過障害・腸管利用尿リザーバー造設術後)を読み込み、制度の全体像を把握する
- 現職または見学先で、CIC利用者への同行訪問を依頼し、カテーテル種類や排尿日誌の運用を実地で確認する
- 求人検討時は「医療保険利用者の比率」「特殊処置手当」「同行訪問回数」「オンコール時の相談体制」の4点を必ず質問する
訪問看護の自己導尿支援は、制度上の裏付けがある処置です。だからこそ、それを評価する仕組みが職場にあるかを自分の目で確かめてください。納得できたら、次の一歩を踏み出しましょう。
参考文献・引用データ
- 2024年度診療報酬点数(在宅自己導尿指導管理料 C106、残尿測定検査、排尿自立支援加算、外来排尿自立指導料)
- Logan Karen, “Patients’ experiences of learning clean intermittent self-catheterization”, Journal of advanced nursing, 2008
- 厚生労働省 第7回 新たな地域医療構想等に関する検討会資料
- 令和4年介護サービス施設・事業所調査
- 身体障害者福祉法(内部障害・ぼうこう機能障害の認定、日常生活用具給付事業、自立支援給付)

