目次

病院では医師や先輩がすぐそばにいました。在宅では、瘻孔の赤みやカテーテルの抜けかけを、自分ひとりで判断しなければなりません。
訪問看護での胃ろう管理に不安を抱く方は、次の2点で悩んでいるはずです。
- 注入や皮膚トラブル対応、カテーテル交換の判断を、未経験からできるようになるのか
- そのスキルと在宅での判断の重さが、給料や評価に反映されるのか
データを見ると、胃ろう管理は訪問看護の仕事の一部であり、給料の差は条件で決まる
日本訪問看護財団の調査によると、訪問看護利用者への看護内容で最も多いのは病状観察の96.9%です。一方「胃瘻による経管栄養法の実施・管理」は3.3%にとどまります。医療処置に係る看護を受ける利用者は61.5%です。
この数字から、胃ろう管理だけが求められる仕事ではなく、観察と判断が土台になっていると考えられます。
給料面では、日本看護協会の調査(2025年1月給与額)で基本給月額は訪問看護ステーション280,046円、病院283,304円とほぼ同水準です。ただし、税込給与総額は訪問看護ステーション383,262円、病院409,436円と差があります。
胃ろうのスキルが自動的に給料を上げるという公的統計は、今回確認した資料には見当たりません。評価につながるかは、研修修了の有無や事業所の給与制度といった条件次第です。
ここからは、市場データ・制度・現場の判断ポイントの3点を具体的に見ていきましょう。
訪問看護の胃ろう管理は市場でどう位置づけられているか。給料データとあわせて確認

胃ろうの経管栄養管理は利用者の3.3%。頻度は高くないが任される場面はある
日本訪問看護財団「訪問看護の現状とこれから 2025年版」によると、看護内容(複数回答)は以下の通りです。
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 病状観察 | 96.9% |
| 本人の療養指導 | 60.7% |
| 家族等の介護指導・支援 | 31.9% |
| 栄養・食事の援助 | 12.5% |
| 胃瘻による経管栄養法の実施・管理 | 3.3% |
訪問看護 胃ろう 管理が求められる頻度は高くありませんが、利用者層によって差があります。胃ろう利用者が多いステーションほど、未経験者が経験を積める機会も増えると考えられます。一方で、胃ろう管理は栄養状態の観察や家族指導とセットで担う業務です。
なお3.3%はこの調査区分での割合であり、医療保険のみの重症者層の内訳は資料に明示がありません。全体像を断定することはできない点にご留意ください。
厚生労働省「訪問看護 参考資料」(調査年不明)では、看護職員規模「5人以上」のステーションは45.2%です。小規模事業所も少なくないため、社内に胃ろう経験者がいるかどうかで教育体制が変わる傾向があります。
給料は病院と比べてどうか
日本看護協会「2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査報告書」(2025年1月給与額)では、基本給はほぼ同水準ですが、税込給与総額に差があります。夜勤手当などの影響が推測されますが、断定はできません。
なお訪問看護ステーションの数値は職位を区分していないため、病院の非管理職スタッフ(基本給259,846円、税込380,901円)と単純比較はできません。
別調査の日本看護協会「2024年度 診療報酬・介護報酬改定等に向けた訪問看護実態調査」では、訪問看護師(非管理職、平均年齢44.0歳)の基本給259,958円、税込335,144円という数値もあります。調査主体が異なるため、上記数値との差し引きや平均化はできません。中央値は今回確認した資料には明示がありません。
平均だけで判断しない。時間外手当と満足度の分布
同調査(2025年1月)の時間外手当平均は、訪問看護ステーション31,772円、病院27,457円です。ただし、分布は「1万円未満」27.4%、「1〜2万円未満」15.2%、「2〜3万円未満」13.4%と幅があり、平均値は一部の高い金額に引き上げられている可能性があります。
賃金満足度は、訪問看護ステーションが「満足」7.1%、「やや満足」16.5%。病院は「満足」2.3%、「やや満足」9.5%です。満足の割合は訪問看護のほうが高い一方、「やや不満」28.5%、「不満」22.7%と過半数近くが不満側にあります。非正規の平日時給は、訪問看護ステーション平均1,813円、病院平均1,656円です。
胃ろうスキルを評価につなげる制度。特定行為研修と専門管理加算
PEG後のカテーテル交換は「ろう孔管理関連」の特定行為
厚生労働省の特定行為研修制度では、38行為21区分のうち「ろう孔管理関連」区分に、PEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)後の胃ろうカテーテルや腸ろうカテーテル、胃ろうボタンの交換が含まれます。
共通科目は総計250時間(臨床推論45時間、フィジカルアセスメント45時間、臨床薬理学40時間など)、区分別科目は1区分あたり5〜34時間です。決して軽い研修ではありません。
訪問看護指示書と手順書。在宅で看護師が判断してよい範囲
日常の管理は、主治医が発行する訪問看護指示書に基づいて行います。特定行為研修修了者は、医師があらかじめ作成した手順書に沿い、定められた範囲でのみ特定行為を実施できます。未経験者が自分ひとりで交換の判断をする仕組みではありません。
専門管理加算(250単位/月)は事業所の収入。給料に直結するとは限らない
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」によると、訪問看護と看護小規模多機能型居宅介護に専門管理加算250単位/月が新設されました。算定要件は特定行為研修修了者による計画的な管理で、対象特定行為に胃ろうカテーテル交換が含まれます。
ただし、この加算は事業所の報酬であり、個人の手当に反映されるかは事業所ごとに異なります。反映実態は公的統計に明示がありません。最新の算定要件は厚生労働省資料で確認することをおすすめします。
日本看護協会「2024年 病院看護実態調査」では、正規雇用のA課程認定看護師(訪問看護分野)が1人以上いる病院は88件(2.6%)にとどまります。在宅分野の専門資格保有者は少ない傾向があります。
なお、介護職員等による特定行為研修(喀痰吸引等研修)は看護師の特定行為研修とは別制度です。在宅では、介護職員への指導や連携も看護師の役割に含まれます。
未経験者を支える公的支援の例
三重県「令和3年度第2回三重県看護職員確保対策検討会 事項書」によると、新任訪問看護師就労支援事業補助金は、看護師経験がある新任者1人あたり22万円×1/2が補助基準額です。令和3年度実績は32事業所、新任者80人でした。これは一県の一時点の例であり、現行制度は各都道府県への確認が必要です。
在宅の胃ろう管理で判断が重くなる3つの場面

カテーテルの種類を把握する
バルーン型カテーテルは内部の風船で固定し、交換がしやすい一方、バンパー型カテーテルは内視鏡的な処置を要する場合があります。形状にはボタン型・チューブ型があります。カテーテル交換周期は種類によって異なるため、主治医の指示と添付文書に従います。初回訪問前に、地域医療連携室や退院前カンファレンスで、造設時期・カテーテル種類・次回交換予定・交換担当医療機関を確認しておくことが重要です。
バンパー埋没症候群を見逃さない観察
外部ストッパーの締め付けが強すぎることなどで、内部バンパーが胃壁に埋まっていく状態です。カテーテルが回るか、上下に遊びがあるか、皮膚が陥没していないか、注入時に抵抗がないかを確認します。異常が疑われたら自分で調整せず、主治医への報告が原則です。あわせて瘻孔の皮膚トラブル(発赤、滲出液、肉芽形成、びらん・潰瘍)も観察対象です。滲出液を拭くだけで固定の強さや漏れといった原因評価をしない失敗もよくあります。
自己抜去直後の瘻孔閉鎖リスク
瘻孔は抜けてから時間が経つと狭くなりやすいため、夜間・休日の連絡フローを事前に決めておくことが重要です。緊急時の再挿入や瘻孔維持の代替処置は、看護師が単独で判断するものではなく、主治医との事前の取り決めや訪問看護指示書、手順書の範囲で行います。バンパー型は医療機関での対応が必要になりやすい傾向があります。
半固形化栄養剤による選択の基準
経管栄養剤(半固形・液状)は粘度によって性質が異なり、粘度が高いことで胃食道逆流症(GERD)や下痢を抑える方向に働くと考えられています。ただし、栄養剤の選択・変更は医師の指示範囲で行い、看護師は観察結果を報告する役割です。
在宅の判断の重さは、ひとりで決めることではありません。観察して報告し、連携の流れを動かすことにあります。そしてその力は、研修と経験を重ねることで身につけられる可能性があります。
胃ろう管理スキルとキャリアの今後
可能性が高いシナリオ
在宅で医療処置に係る看護を受ける利用者は61.5%。令和6年度介護報酬改定では、特定行為研修修了者を評価する専門管理加算(250単位/月)が新設されました。
この2点から、在宅での医療処置の管理能力が評価される流れは、今後も続く可能性があります。
リスクシナリオ
一方、胃瘻による経管栄養法の実施・管理は利用者の3.3%にとどまります。胃ろうだけに特化しても、差別化になりにくい可能性があります。
加算が個人の給料に反映されない事業所もあります。報酬改定によって評価の内容が変わるリスクもあります。
訪問看護 胃ろう 管理は、単独スキルというより観察・アセスメント力の一部として磨くのが現実的だと考えられます。
訪問看護での胃ろう管理に向いている人・向いていない人

セルフチェックリスト
- バイタルサイン測定と腹部症状の観察ができるか
- 注入中〜注入後の半座位の維持を理解しているか
- 注入速度(ml/h)の管理と嘔吐・腹部膨満の確認ができるか
- 注入前後の白湯(フラッシュ)の実施を理解しているか
- 口腔ケアと唾液分泌の評価による誤嚥性肺炎の予防を意識できるか
- 家族が注入手技を理解しているか確認できるか
角度や交換周期、注入速度の具体的な数値は、主治医の指示・ステーションの手順書に従います。
向いている人
- 観察した事実を言葉にして主治医に報告できる人
- 手順書や指示の範囲を守れる人
- 家族への指導に根気よく向き合える人
- 特定行為研修などを通じて学び続ける意欲がある人
向いていない人(職場の条件次第)
- 「在宅では自分の裁量で何でも決められる」と期待している人
- 同行訪問やマニュアルが整っていない事業所で、すぐひとり訪問になる環境(本人の適性ではなく職場の条件の問題です)
- 胃ろうのスキルだけで給料がすぐ上がると考えている人
よくある質問
Q1. 訪問看護で胃ろう管理ができると、給料は上がりますか?
胃ろうスキル単体で給料が上がることを示す公的統計はありません。給料に影響しうる経路としては、特定行為研修修了と専門管理加算(250単位/月)、担当できる利用者の幅の拡大、時間外手当が考えられます。参考として、日本看護協会調査(2025年1月)では訪問看護ステーションの税込給与総額は383,262円です。手当への反映は事業所ごとに確認が必要です。
Q2. 夜間に胃ろうが抜けたと連絡があったら、ひとりで対応するのですか?
主治医との事前の取り決め、訪問看護指示書、手順書に基づいて対応する流れが基本です。オンコール頻度の公的統計は今回確認できていません。入職前に、緊急時の主治医連絡先と交換担当医療機関が決まっているか確認しましょう。
Q3. 未経験でも、胃ろう管理を先輩に教えてもらえますか?
厚生労働省資料によると、看護職員5人以上のステーションは45.2%です。規模によって教育体制に差がある傾向があります。同行訪問の期間、胃ろう経験者の有無、相談しやすい雰囲気を面接で確認することをおすすめします。
次のステップ

- 求人票・面接で確認:胃ろう利用者の有無、同行訪問の期間、手順書の整備状況、緊急時の取り決め
- 給与制度を確認:基本給と手当の内訳、研修費用補助、専門管理加算の手当反映状況
- 地域の補助制度を調べる:三重県では令和3年度、新任者1人あたり22万円×1/2の補助金実績があります。現行制度は各自で確認してください
- 入職後の順序:まず日常の観察・注入・皮膚ケアを確実にし、そのうえで特定行為研修「ろう孔管理関連」を検討する
胃ろう管理は未経験からでも段階的に身につけられます。ただし、評価や給料へのつながり方は、職場の条件で大きく変わります。数字と条件を確かめ、納得できたときに一歩を踏み出してください。
参考文献・引用データ
本記事で使用している数値・制度内容・市場動向に関する情報は、以下の公的資料および信頼性の高い調査データを参照しています。
- 日本訪問看護財団「訪問看護の現状とこれから 2025年版」
- 厚生労働省「訪問看護 参考資料」
- 介護サービス情報公表システム:事業所の概要(定巡ほっと・くるくる)
- 厚生労働省「在宅医療、在宅訪問薬剤管理及び訪問看護の実施状況調査 報告書(案)」
- 厚生労働省「令和7年度第9回 入院・外来医療等の調査・評価分科会 資料」
- 日本看護協会「2024年 病院看護実態調査 報告書」
- 日本看護協会「2024年度 診療報酬・介護報酬改定等に向けた訪問看護実態調査」
- 日本看護協会「2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査報告書」
- 医療法人社団 東山会「2025年度 事業報告書」
- 日本訪問看護財団「調査研究・研究助成 事業一覧」
- 厚生労働省「特定行為に係る看護師の研修制度について(令和8年度指定研修機関説明会資料)」
- 三重県「令和3年度第2回三重県看護職員確保対策検討会 事項書」
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」
- 厚生労働省「看護師の特定行為研修制度に係る手順書例集~在宅領域版~」
- 厚生労働省「特定行為に係る手順書例集(看護職員確保対策特別事業)」

